黒木くんが溺愛ヴァンパイアに覚醒してしまったのは、私の告白が原因だったようです。
ホントの「好き」。 (辻村胡春SIDE)
私は、まだ蒼夜くんを避けまくっていた。
私が目を逸らすと、蒼夜くんはショッキングを受けた様子。
彼は目に見えて傷ついていて、どんどん関わるのが怖くなってきてしまう。
私は、彼が話しかけようとしても気づかないフリをして菜々子様の元へ直行するのを繰り返していた。
それでも、図書委員の当番の金曜日は来てしまうわけで…。
とぼとぼ、おぼつかない足取りで廊下を歩いて、到着してしまった図書室。
ドアの取っ手を掴んだ時、目の前に現れたのは、
「やっと会えた……。」
と顔をほころばせる蒼夜くんだった。
しかし、ハッと顔色を変え、手のひらを顔面を覆うと、部屋の中を右往左往し始める。
ついに、
「なぁ、なんで避けるんだ。俺のこと嫌いになったのか?まさか、他に好きな男が……!?」
と涙目になってしまう。
私はとても悲しくなってきて、
「蒼夜くんは、もともと私のことなんか好きじゃなかったんでしょ…!気軽に血を飲ませてくれるような子が必要だっただけ。」
自分に言い聞かせるように言葉を吐き捨てる。
「私は蒼夜くんのことが好きだったのに…。」
すると、蒼夜くんはみるみる青ざめていく。
私は、慌てて弁明した。
「あ、ごめん。やり過ぎちゃった…。私が勝手に想いを押し付けちゃった。蒼夜くんのそばにいられるだけですごく幸せなことなのに、欲張っちゃった。」
あはっ、と笑顔を取り繕う。
「蒼夜くんだって困るよね。吸血できる相手がいなきゃ。」
その瞬間、ばたんと床に倒れる蒼夜くん。
「……え?そ蒼夜くん…?大丈夫!?」
私が声を上げると、蒼夜くんは力なく地べたに這いくつばりながら言葉をつむぐ。
「違うんだ。現代のヴァンパイアは好きな女の血しか飲まないんだ。だから、お前の血を飲まないと…。」
蒼夜くんは事情を簡潔に説明を始める。
吸血鬼は本来、滅多に動揺することはなく合理的で、冷たいロボットのような性質を持っている。
しかし、一人の人間と相思相愛の関係になれば、ヴァンパイアとしての本能が目覚め、相手に異常なほど盲目的に執着を始める。
番になれと本能的に迫って、相手の血液を渇望。
不足すると定期的に貧血に苛まれて、倒れてしまうらしい。
「じ、じゃあ早く、吸血しないと…!!」
私は、目頭にうっすら涙を滲ませつつ、首筋を彼に噛ませ、血を飲ませた。
「ありがとう。胡春のおかげで元気になれた。小4からずっと、お前のこと好きだった。」
「え?い今、好きって言った…?」
私は今頃気づく。
蒼夜くんは、
「さっきから何度も言っているが…」
と呆れたように笑う。
そして、
「大好きだ。胡春のこと……。」
どっ直球な愛の囁きと共に、涙目のまま頬を紅潮させて、満面の笑みを浮かべた。
溢れんばかりの喜びと彼の神々しいオーラに圧倒されていれば、蒼夜くんにちゃっかり唇を盗まれる。
私は、茹でタコに伝染してしまった。
私たちが、その一部始終を
「ふーん。良かったじゃない。」
と菜々子様に覗き込まれていたという事実を知るのはずっと先のお話。