やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない

 私、ジェラルディン・キャンベルをジェンと呼び始めたのはシドニーだ。


「そろそろ先輩じゃなくて、シドニーでいいよ。
 俺も名前で呼ばせて貰おうかな。
 キャンベルは何て呼ばれてる?」

「あー、えーと、ジェリーです」


 王都の高等学院で知り合って、1年が経とうとしていた頃。
 シドニーが学院を卒業して大学に進学した頃だ。
 彼の方からお互いに名前呼びをしよう、と提案されて、私は昔からの愛称の『ジェリー』と答えた。


「そうだなぁ……じゃあ俺はジェンと呼ばせて貰おうかな。
 まだ誰も君をそう呼んでないだろ?
 俺がジェンの一番最初、ってことで、よろしくな?」


 直ぐに受け入れて心を開いてくれた先輩ではなかった。
 シドニーは侯爵家の子息で、見た目も良くて。
 彼は自分を取り巻く条件に惹かれて近付く人間を毛嫌いしていた。
 最初は私もそう思われていて。
 凄く線を引かれていた。


 だけど1年経って、普通に友人と扱ってくれるようになって。
『身内』になると、彼は色んな表情を見せてくれるようになって。

『シドニーってクールなひとかと思っていたけれど、単なる人見知りだね』
 そう言った私の髪の毛を、彼は笑顔でくしゃくしゃとかき混ぜた。


 シドニーが私をジェンと呼ぶから、王都で知り合った人達は皆、ジェンと呼ぶようになった。

 去年、領地から王都に出てきて、私の部屋で同居するようになった従姉のモニカを除いて。
 彼女だけが、私をジェリーと呼び続けた。
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