やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 夜空を見上げて、涙を堪えるなんて。
 そんな柄にもないリリカルなことをしてるから前方注意が疎かになっていて、隙だらけの私は殴られてバッグを狙われたんだ、と思った。


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですかっ!」

 耳に響く高音。
 私に謝っているんだよね?
 だったらこれは、殴られたんじゃない。
 私はお腹を押さえてバッグを抱えてうずくまっていたけれど、それはひったくりだと思ったから、バッグと腹部を守ったのだ。


 このちょっとキンキンくる独特の高音は子供?
 子供にぶつかられただけなら、大丈夫。
 おどおどと遠慮がちに、丸めた背中を擦ってくれている小さな手。

 通りすがりに足を踏んでも知らん顔する子供も多いのに、この子は逃げずに私を気遣って。
 なんていい子なんだろう。
 笑顔を見せて『心配しなくても、お姉さんは大丈夫だよ』と教えてあげないと。

 ぶつかられて、謝られて、背中を撫でられて。
 荒んでいた気持ちが、ほんの少しだけど癒された……ありがとうね。

 そしてやっと気付いた。
 ほんわかしていた気分が霧散する。


 え、子供?
 こんな夜遅くに?
 こんな酒場とか、夜のお店が居並ぶこの通りで?
 子供?
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