やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない

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 お金さえ払えば、おじさんは許してくれるはずだ。
 幼いパピーを巡っての、私とおじさんのやり取りを周囲の人達も聞いている。
 ちょっとした見物なのか、足を止める人が増えてきて、こちらを面白そうに見ているのが分かった。


「に……いや、5個盗まれましてね、合計は30ルアで」

「ひでぇな、5個で30って、ぼったくってんじゃねぇ!」

 おじさんの法外な金額申告に、周囲の誰かから野次が飛んだのが聞こえた。
 おじさんはそちらに向かって中指を立てたが、私には卑屈な、それでいて馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべた。


「違う!」

 見上げたパピーが必死で訴えようとするけれど、私は口許に人差し指を当てた。
 いいの、分かってる。
 だけど、もう時間をかけずに解決する方を優先しよう。
 押し問答が長引けば見物人の誰かが、警察官を呼ぶだろう。

 最初は、に、と言いかけていた。
 本当は5個盗まれたんじゃなくて2個なんじゃないの?
 そう言ってやりたかったけれど。
 盗んだのは何個だったか、証明は出来ないのだから。
 被害者であるおじさんの言い分を聞くしかない。


 おまけにおじさんは私のことを、パンの適正価格もわからない世間知らずのバカ娘、と思っている。
 パン1個が6ルアなんて、ぼったくり金額を吹っ掛けられているのも、分かっていた。
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