LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 彼女が黙っていると、瑶煌が続けた。

「前から気になってたんだけど、下の名前、ラピスラズリからとったものか?」

「そうです」

 答えると、それだけで会話が終わってしまった。

 何のためにここに残ってるんだろう。

 瑠璃は瑶煌の存在をうとましく思った。さっさと消えてくれたら一人で泣けるのに。

 しばらくして、瑶煌はまた口を開いた。

「ラピスラズリはラズライトを主成分としていて、カルサイトやパイライトによってあの美しい模様が出ている。群青色(ぐんじょういろ)に白と金が浮き出た夜空みたいな見た目から、「天を象徴する石」とも言われたことがある。パワーストーンとしては厄を除けて幸運を呼ぶ石として人気でもある」
「知ってます」

 しまった、と思った。こういうところがかわいげがないと言われてしまうのだ。しかしなぜラピスラズリの説明をするんだろう。

「なら良かった」

 なにが良いんだろう。

 顔を上げると、瑶煌はなぜかうれしそうに笑っていた。目を細めた控えめな笑顔が、彼らしかった。

 ぽかんとしてその顔を見た。

「君からジュリーを買ったお客さんは、きっと幸せをつかんでいるんじゃないかな」

 それだけ言うと、瑶煌は立ち去った。

 呆然と後ろ姿を見送ったあと、涙がぽろぽろと零れて来た。もう止めることはできなかった。
 



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