LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「藍に会いたいって、すごくおねがいしてここに来たんだ。すぐに行かなきゃいけない」

「そんな……」

 突然のことに、心の整理ができない。

「ともだちとの仲直りがんばって」

「……がんばる」

 自然と涙が溢れてきた。一粒(こぼ)れたらもう止まらなくて、わーっと泣いてしまった。

 声を上げて泣く愛に、彼は困ったように言った。

「なかないで、藍」

 そういう彼も涙声だ。


「いつか、本物のブルースカイストーンをプレゼントする。おれがデザインしたやつ」

「うん」

 藍はうなずくことしかできなかった。

 何か自分も彼にあげたい。

 ポケットをさぐると、花柄のハンカチが出て来た。

 くしゃくしゃの、今日使ったハンカチ。お気に入りだったからたくさん使ってたくさん洗って、色あせてしまった。

「これ、あげる」

 もっとまともなプレゼントをあげたかった。

 前からわかっていたなら、きちんと用意できたのに。しっかりじっくり選んで渡せたのに。

 だけど、今はこれしかない。

「ありがとう。うれしい」

 受け取る彼の頬を、涙が伝う。

「じゃあね。元気でね」

 言って、彼は振り向きもせず走り出した。藍があげたハンカチを握りしめて。

 私のかわりにずっといてね、と藍は思った。

「元気でね!」

 その背中に藍は大きな声をかける。

 見えなくなるまで、ずっと手を降っていた。

 初恋だったと気が付いたのは、ずっとあとになってからだった。




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