LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
「そこまで大袈裟にしなくても……」

 警察が来たとなったら大騒ぎだ。パトカーがきて野次馬がきて、噂がとんで。藍には店の評判が悪くなる未来しか見えなかった。

 そうでなくても警察はハードルが高い。どの程度なら警察を呼んでいい状態なのか、藍にはわからなかった。ただのケンカと言われてしまえば、警察を呼ぶほどでもないような気もする。

「しかし。殴られただろう。頬が赤い」

 頬に手を添えられ、藍は目を伏せる。

「冷やせば大丈夫です」

 瑶煌は黙ってしばらく考える。

「今日はショックもあるだろうから、明日また考えよう。とりあえず、店を閉める。なにがあったのか教えてほしい」

 店を閉めてから瑶煌は藍を応接セットに座らせ、タオルを濡らして渡した。藍はそれで頬を冷やした。

それから瑶煌は藍から話を聞いた。ときどき瑠璃にも状況を確認する。

「瑠璃、ああいうときは遠慮なく警報ボタンを押して。工房の中にも聞こえるから」

「……わかったわ」

「直哉にも話をきいてみないとな」

 瑶煌はそう呟いて、直哉に連絡をとる。

「少し早いが、今日は終わりだ。茅野さんは病院に行って診てもらって。俺も行くから」

「……そんな」

「やっぱり工房にも防犯カメラのモニターを置こう。二人にはスマホも店内に持って行ってもらう。何かあったらすぐに警察に電話だ。明日、中清水さんにも伝えよう」

 瑶煌が言う。瑠璃は返事もなく床を見つめる。

 瑶煌の集中がさまたげられる、とかつての瑠璃はモニター設置を反対していた。

 彼女の瞳に宿った暗い炎は、その火勢を強めていた。




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