LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 あれからもう一度きいてみたが、やはり「何もない」と言われてしまった。

 普通はこういう暇な時間に接客の仕方を教えたりレジを教えたりするものではないのだろうか。それともこの店はそういう方針なのか。とはいえ、あまりに放置しすぎではないだろうか。

 おかしい。

 試されている? 意地悪をされている? でもなんのため? 何が気に入らないの?

 いやいや、まだそうと決まったわけではない。

 大人なんだから、自分で考えて判断しなきゃ。

 そう考えて、ぞうきんとスプレーを持ってきてショーケースを拭き始めた。

 朝の掃除でも拭いたが、何かしないと暇で暇で耐えられない。

 勝手なことをして、と怒られるかと警戒したが、さすがにそれはなかった。

 ガラスを磨きながら、つい考えてしまう。

 何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか。

 コップの位置を間違えたこと? それだけで?

 大人。大人の対応をしなくては。もういい年なんだから。自分でできることを探して、信頼してもらえるようにならなくちゃ。いちいちもめるのは大人のすることじゃない、我慢。

 だが、ただひたすら掃除をしているだけでは虚しくなってくる。

 何しているんだろう、私。掃除も仕事だけど。

 不安を通り越して悲しくなってくる。

 結局、藍の就業初日は掃除だけで終わった。



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