LE CIEL BRILLANT 〜無職29歳、未経験の仕事に挑戦したらジュエリーデザイナーにこっそり溺愛されてました〜
 動揺した藍を見てフフッと瑶煌が笑う。

「仕事でってことだよ」

「は、はい」

 思いっきり勘違いするところだった。直哉と言い瑶煌といい、あの店の男性陣はどうしてこうも女性の心を揺さぶってくるのだろう。

「本は読んだ?」

「はい」

「ちゃんと読んでくれたんだ。ありがとう」

 読まないと思われたのか。藍はへこみながら続ける。やる気を見せなくては。

「ほかにも読んでみたくなりました。スーツを探すついでに書店で本も探してみたんですけど、意外に宝石の本ってないんですね」

「一般の人は買わないだろうからね」

「ネットでも勉強してみます」

「ネットは嘘や間違いがあったり、お店のサイトの場合はお店独自の情報が混じってるから気を付けてね」

「はい」

「店員だからと言って宝石の雑学を知っておけばいいというわけじゃない。大切なのはお客さまに満足する買い物をしていただくことだから」

「はい」

「接客業だからって無理して笑顔を作る必要もないよ」

「そう……なんですか?」

「緊張しててもいいから。お客様だってこちらが人間なのをわかってる。完璧じゃなくていい。誠実に接客したら伝わるから。これは甘えじゃなくて信頼だと思ってる」

「はい」

 心に刻んでおこう、と藍は思った。

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