束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】

3. 望まぬ言葉

『ごめん、彩子。今日昼ずらしてとるわ』

 恵美からその連絡がきたのは、昼休憩の三十分ほど前だった。一緒にランチに行く約束をしていたのだが、どうやら仕事で抜けられないみたいだ。彩子はしかたなく一人で社食で昼食をとることにした。


 定食を頼んで一人席につく。一人の食事というのは何とも味気ないものだ。

 彩子が黙々と食していれば、後ろの席から賑やかな声が聞こえてきた。同僚と一緒に昼を楽しんでいるのだろう。何とはなしに耳を傾ける。

末永(すえなが)くんまた告白されたらしいよ」

 末永は今年入社した新入社員だ。非常に整った顔立ちをしており、入社当初から騒がれていた。

「え、何人目?」
「さあ、多すぎてわかんないよ」
「入社してからその噂ひっきりなしじゃん」
「でも皆ばっさりだけどね。まあその塩対応っぷりが人気の理由みたいだけど」
「松藤さんとは全然違う方向でモテてるよね」

 洋輔の名前に彩子は少しばかり心臓が跳ねた。

「確かに。松藤さんは王子様って感じだったもんね。今どうしてるんだろうね」
「この間、松藤先輩と話したけど、元気そうだったよ?」
「え、さやちゃん、松藤さんと話したの?」
「うん。リモートでね。全然変わってなかったよ?」
「はー、リモートでも話せるとか羨ましい」

 その声が聞こえるまで気づかなかったが、後ろにいるのは小谷たちだったようだ。小谷の台詞に彩子は喉が詰まりそうになる。


 彩子は無理やりご飯を押し込んで、さっさとその場をあとにした。

 詳しい事情はわからないが、二人が話したという事実だけで胸が苦しくなる。今は距離が離れている分、余計につらかった。
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