束の間を超えて ~片想いする同僚兼友人に、片想いをした~ 【番外編追加済】
 週末。その日はデート日和といえるほどの快晴だった。

 二人でのお出かけが初めてでないとはいえ、今日のそれがデートだと思えば、なんだかむず痒い気持ちになってくる。

 せっかくならおしゃれをして、かわいく見られたいものだが、二人は友人の延長上の関係だ。あまり変化を見せるのはよくないだろう。できるだけいつも通りの格好を意識し、せめてこのくらいはと普段は下ろしている髪を高めの位置でくくり、彩子にしてはかわいらしいデザインのシュシュで根元を飾った。



 彩子が待ち合わせ場所に向かえば、すでに洋輔はそこに立っていた。

「松藤、お待たせ」

 声をかければ、洋輔は軽く微笑んで「行こうか」と先を促した。このやりとりも初めてではないが、恋人という立場だと思うといささかくすぐったかった。


 二人一緒にホームで電車を待っていれば、なんとなく視線を感じて後ろにいる洋輔を見上げた。やはりこちらを見ていたのか洋輔と視線が合う。

「ん?」
「折戸、その髪型もいいね。かわいい。似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう」

 普通に返せた自分を褒めてやりたい。これはモテるわけだ。

 誉め言葉を口にできること自体すごいが、さらにこの男は普段の髪型もいいというニュアンスまで込めてきた。これは今までの彼女たちも骨抜きにされてきたに違いない。気を抜けばあっという間に引きずり込まれる。彩子は同じ轍を踏んでなるものかと密かに気合を入れなおした。
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