私 ホームヘルパーです。
 だってさあ、高山さんくらいしか思い浮かばないんだもん。 でも高山さんには美和子さんが居たわよねえ?
となると、、、竜岡さん? ちょいと考えにくいなあ。
 風呂上りにビールを飲みながらいろいろと考えてみる。 でもなんか浮かばない。
そこへ信二が入ってきた。 「ワオ、何か用?」
「別に用ってほどの用も無いんだけどさ、、、。」 そう言いながら信二は私の隣に座りました。
 「滝田って卒業したら自衛隊に入るんだって。」 「へえ、そうなんだ。」
「近頃さあ中国がやばいじゃない。 死んでも日本と台湾を守るんだって聞かないんだよなあ。」 「あんたはどうなのよ?」
「俺はどっちでもいいと思ってるけどなあ。」 「何やねん? あんた日本を滅ぼす気か?」
「こんな国なら無くなってもいいよ。」 「あのさあ、中国ってただでさえ変な国なのよ。 あんなのと一緒にされたいの?」
「なるようにしかならないんだってば。」 「それじゃあ日本が終わっちまうじゃない。 考えなさいよ。」
「いいじゃん。 政治家はいいように遊んでるんだし金持ちは自分のことしか考えてないし、芸能人と警察官は馬鹿しか居ないし、終わってるじゃん。」
「そうは言うけど一般庶民はまだまだ必死に働いてるのよ。」 「どんだけ働いたって報われないよ。 そんな風に世界が出来上がってるんだから。」
 信二の話を聞いているとだんだんと反論できなくなるんです。 どうしたらいいんでしょうねえ?
外れも無いわけじゃないけど思ったより当たってるのよね。 誰がこんな歪んだ社会にしたんだろう?
 みんな金にしか興味は無いし支え合いとか助け合いは金でやるもんだって思い込んでるし、、、。
こんな世の中だったら終わらせたいわなあ。 報われないんだもん。
 生活だって何だってご近所さんの支え合いが有れば今までは何とかなったのよ。 それが今じゃどう?
「顔さえ知らないやつはほっとけ。」だもんなあ。 これじゃあ浮かばれないわ。
 団地だってさあ、昔はみんなでワーワー楽しくやってたのよ。 ところが今はどう?
「あいつがうるさい。」「こいつが汚い。」「あいつらは邪魔。」
みんなで潰し合ってる。 よくもまあそんなんで住んでいられることねえ。
そんなことばかりやるから年寄りしか住まなくなるんでしょう? 町内会だってそうよね。
今やお年寄りの慰労団体に成り下がってるじゃない。 新しい人たちは入るのを拒否してるわけだし。
あーあ、つまんない世の中ねえ。 なんとかならないのかなあ 竜岡さん?

 翌日は水曜日。 ぼんやりした頭で昼までゴロゴロしてます。
百合子も朝からゴロゴロしていて信二君だけが動き回ってますねえ。 一念発起したとかで洗濯をしてます。
 「下着は見えない所に干すのよ。」 庭に出ている信二君に声を掛けます。
「分かってるよ。 でもさあ、もっとおしゃれな下着に換えたら?」 「は?」
「こんなダサい下着じゃあ彼氏なんか出来っこないよ。」 (言いやがったな、この野郎。)
 ムカついた私は昼から百合子と二人でランジェリーショップを渡り歩くことを決めたのですよ。 おばさんの底力を見せてやるーーーーー!
とは言いながら昼までぐっすり眠ってしまったのでした。 「お母さん 起きようよ。」
(ん? 何か声が聞こえるなあ。) 「お母さん、昼だよ。」
 ぼんやりと目を覚ましてみると百合子が枕元に座ってました。 「あらあら、おはよう。」
「よく寝てたねえ。」 「信二は?」
「お兄ちゃんなら友達とサイクリングに出ていったわよ。」 「そっか。 お昼食べようか。」
「焼きそばがいいなあ。」 「分かった。」

 そんなわけで二人で平和なお昼を食べながら考え事をしてます。 百合子の体を見ながら、、、。
(百合子も大人になってきたなあ。 どんな彼氏を捕まえるんだろう?) 自分の高校時代と何か重なるんですよ。
 (私みたいにならなきゃいいけどなあ。) 「ねえねえ、お父さんと出会ったのは高校生の時だったんでしょう? どうだった?」
「どうだったって?」 「第一印象はどうだったの?」
「うーーーん、特別目立つわけでもないし特別かっこいいわけでもないし特別偉いわけでもなかったなあ。」 「つまりは地味ってこと?」
「地味どころじゃないわよ。 いい所が無かったの。」 「それじゃあ最初から終わってたんじゃない。」
「そうかもなあ。 だから泣きついてこられた時には本気で悩んだわよ。」 「泣きついてきたの? 面倒くさい人。」
 「それを見ちゃったら断れなくて、、、。」 「それで結婚しちゃったの? 馬鹿みたい。」
「まあまあ、そう言うなって。 お父さんの種が有ったからあんたたちが生まれたのよ。」 「それはそうかもしれないけど、何かムカつくわ。」
 焼そばを食べながら私は狸と出会った頃のことを懐かしく思い出したのです。 もう30年近く前の話。
あれから7年くらい付き合ってそれでやっと結婚したのよね。 そして信二と百合子が生まれた。
気付いたら狸は家を出ていって帰ってこない。 親も親だから手元に置いてるのねえ。
 いいんだけどさあ、私は私だから。 そう思いながら百合子と買い物へ、、、。
キャバ嬢みたいな下着も買ってみた。 これを見たら信二は何て言うだろうなあ?
 買い物帰りに市役所に寄りまして離婚届の用紙を貰ってきました。 ところが、、、。
家に帰ってくると大きな郵便物が届いてます。 「何だろう?」
開けてみるとそれは狸からの離婚届でした。 (あんちきしょう、やりやがったな。)
 そこで凛子さんにもお願いして名前を書いてもらいました。 ざま見ろや。
翌日、仕事に出掛けていると留守電に入れられたようですねえ。 「離婚届は届いたでしょう? さっさと出してね。 きれいさっぱりお別れしましょう。」
 「そんなことしか言えないのか あのばあさん。」 留守電を聞いた信二はボソッと言いました。
「これからさあ、お母さんは独りぼっちよねえ?」 「そうでもないぞ。 俺たちが居るんだから。」
「お兄ちゃん かっこいい。」 「何言ってんだ。 親子三人で頑張ればいい。」
 知らない間に二人とも頼れる子供になってたわ。 狸の子供は狸じゃなかったのね?

 それにしても産んだ赤ん坊を捨てる母親ってまだまだ居るのねえ? あんた何様よ?
二度とやれないようにあそこを塞いでしまいなさい。 だらしないったらありゃしないわ。
 軽い気持ちでエッチするからこうなるのよ。 23にもなって何も分かってないのねえ。
今さえ良ければいいんですか? そんなの日本人じゃないわよ。
 貞操も緩々、頭も緩々、仕事も緩々、体も緩々、そんなんで生きてて楽しいか?
信じられない人間が増えたわよね。 しかもみんな平成世代。
 何でさあ、平成の人間ってこうなの? まともなやつは居ないのかね?
あの時代、思い出したくないくらいに国もめちゃめちゃだったなあ。 バブル崩壊の煽りをもろに引きずってたからなあ。
 氷河期世代が山と出たのもこの時代よね。 でもさ、頭と技術が有ったら乗り越えられたんじゃないの?
だちだってまともに仕事が無かった時代を生きてきたって言ってたけど、「幸いにもマッサージの資格を持ってたから働けたんだ。 それが無かったらさ迷ってたよ。」って言ってたもんね。
 ただただ勉強してただただその日を過ごして気付いたら何も無かった、、、氷河期世代の人のほとんどはそうじゃないのかなあ?
大学 大学って煽られて行ってみたはいいけど卒業したって何も無い。 残ったのは学歴だけ。 それじゃあ憐れすぎるわ。
 それを今になってほじくり返されてもどうしようもないわよねえ。 やっぱり人間は挑戦する生き物なのね。
自分に挑んで戦って戦って乗り越えた所にしか本当の幸せは無いような気がするなあ。
他人と争ってみてもたかが知れてるわよ。 自分と戦うの。
自分が一番強い敵なんだからね。 自分に勝つことが一番難しいのよ。
私でもそう思うなあ。 ねえ、そこのあなた。
 何が悲しくて公園に産んだ子供を捨てるのよ? それこそ大迷惑じゃない。
ここ数年でいったい何人目なの? 晒し物にでもしますか?
 「私は子供を殺しました。」ってさ。 必死になって子供を育ててるママさんはたーーーーーーーーーっくさん居るのよ。
もちろん、その人たちだって産んだ時は苦しんだでしょうよ。 でもせっかく生まれてきた命、我ままで捨てたりは出来ないわよ。
 今だって苦しみながら育てているママさんたちはたくさん居る。 自分は食べなくてもいいからって無理しながらでも育ててる人はたくさん居る。
そのママさんたちの爪を分けてもらいなさい。 ほんとに異常だよ。
頭おかしいよ。 エッチしたらどうなるか分からなかったの?
終わってるわね。 生きる資格は無いわ。
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