ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。

勝負の一本 side.日華



「そこまでだ!手を挙げろ」

「…………。」

「ゆっくりこっちを振り向け。……っ!な、なんで……っ!」

「兄ちゃん……」

「なんでお前がここにいるんだ!マサキ!!」

「――カット!」


 監督の掛け声で構えていた銃を下ろす。


「なんか薄いんだよなぁ。ここは容疑者だと思って追っていた人物が、実の弟だっていう緊迫したシーンだぞ。集中できてるのか?」

「すみません……」

「もう一回!」


 俺は今、映画『アクア・ブラッド』の撮影でロサンゼルスに来ている。
 憧れの地平監督の作品に出演、しかも主演に選んでもらえてこれまで以上に気合いが入っている。この映画が成功すれば、主演男優賞にも大きく近づけるはずだ。

 それなのに、なんだか上手く集中できていない気がする。


「さっきはごめん」


 兄弟役で共演する吉川耀くんに謝った。


「僕のせいで何度もやらせちゃって」

「いえ、珍しいですよね。陽生さんがNG出すのって」

「緊張してるのかなぁ。地平監督の作品に出られるんで、舞い上がってるのかも」


 吉川くんは意外そうに俺を見つめた。


「陽生さんでも舞い上がったりするんですね」

「そりゃするよ。学生時代から地平監督のファンだったから」


< 143 / 195 >

この作品をシェア

pagetop