孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 瞼に次々にイメージが浮かんで一向に睡魔がやってこない。そうこうしているうちに階下で音がした。穂高壱弥が帰宅したのだ。

 シャワーを浴びてドライヤーをかけている音が遠くから聞こえてくると、心臓が急に騒ぎ始めた。

 やだ、なんで今さら緊張なんて。

 ただ一緒のベッドで寝るだけ、と改めて自分に言い聞かせる。慣れたはずなのに今日はやたらと胸が高鳴る。

 階段を上ってくる音が聞こえる。彼の気配が近づいてくるにつれて、胸の鼓動が大きくなる。

 だめだ、どんな顔して会えばいいかわからない。

 ドアが開き、間接照明だけの薄暗い部屋に彼が入ってくる。私はとっさに目を閉じた。

 寝たふりをしている私に気づかず、彼はいつものようにそっとベッドに上がってくる。ぎしりとスプリングが鳴ると、胸の高鳴りも最高潮に達した。

 するりと腰に手が回され、あたたかな体温が近づく。心地よい香りに包まれて数十秒後、私を抱きしめていた体が脱力した。

 眠りに落ちた彼をそっと見る。

 すうすうと寝息を立てている端正な顔。白いすべらかな肌に触れたい衝動を抑えながら思う。

 毎日重要な会議を重ね、膨大な資料に目を通し、あらゆる決断を瞬時に行うこの人の脳は、起きているあいだ猛烈な勢いで稼働している。

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