孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
「もちろん。あなたは穂高社長の奥様ですから。それに、私との関係も話しておくようにと言い置かれていますので」

「深水さんは……あの人のことを、とても信頼しているんですね」

「ええ」

 笑みを深くして、社長秘書は嬉しそうに答える。

「大事な弟のような存在です」

「……だいぶ酷い扱いを受けてるみたいですけど」

 私の言葉に、眼鏡の奥の目を緩ませて嬉しそうな顔で笑った。

「あの方は、相手に心を開けば開くほど素直じゃなくなるのです」







 その夜、一人で食事を済ませ、サウナが備え付けられた貸切風呂みたいなお風呂にゆっくり浸かりベッドに横になっても、なかなか寝付くことができなかった。

 脳裏を駆け巡るのは、穂高壱弥の姿だ。

 会社で忙しく立ち回っている背中、社員とやり取りしているときの真剣な表情、それから苦労を重ねた幼い日々。

 どこにも隙のない完璧な彼が、成功の影にどれほどの努力と情熱を捧げてきたのか、今なら想像に難くない。

 絵本から飛び出してきたおとぎ話の王子さまの印象は崩れ去り、かわりに映ったのは騎士の姿だ。馬上で鎧をまとい剣を振りかざし敵陣を突っ切って道を切り拓く高潔の士。

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