孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
「だが、まさかあそこまでするとは……怖い思いをさせてすまなかった」

 父親の命令で実際に手を下していたのが長男だったということらしい。

 徹さんも言っていたけれど、ずいぶん勝手な話だと思った。でもその徹さんは公設秘書をしているのに父親のお眼鏡にはかなわなかったということか。徹さんと壱弥さんは兄弟でありながら敵対していて、それでも利害は一致していた。

 徹さんにとって、壱弥さんが後継者の話を断ることも相続を放棄することも、すべて好都合らしい。

 だからといって自身の権利を易々と手放してしまうなんて。

「よかったんですか? 誓約書なんか書いて」

 日が落ちかけて車内は薄暗い。隣に座った壱弥さんは視線だけよこすとふっと吐息を漏らした。

「生前の相続放棄の念書に法的な効果はない」

「え」

「まあ、もともとあの家の財産に興味なんかなかったけどな」

 つまらなそうにつぶやいてから、私の手を掴む。大きな手が私の冷えた指を温めるように一本ずつなぞっていく。手の形を確かめるような丹念に触り方に鼓動が早くなる。

「それより、おまえに何かあったらと考える方が心臓に悪い」

 そのまま手をギュッと握りしめられた。

「無事でよかった。本当に」

 窓の外を眺めながら噛みしめるようにつぶやく彼に、胸がじんわり温かくなる。

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