狼とわたあめ



この街で知らない人はいない。


"黒田銀士狼(くろだ ぎんじろう)"

通称"狼(おおかみ)"


仁義に厚い任侠一家、黒田組の若頭。


弱きを助け強きを挫く。


甘いマスクで、男女問わず皆を虜にしてしまう微笑みを浮かべている。


でも、これは表向きの顔で、素顔はクールであまり笑わず、この街の秩序を乱す者には容赦ないという。


そんな、誰から見ても魅力の塊でしかない彼が大事にしているこの地元の神社のお祭り。


年に2回、7月と10月に催される夏祭りと秋祭り。


毎年若頭自ら参加することで知られており、あの狼が屋台でわたあめを配っているとくれば、そのギャップにやられない女子はいないだろう。


「ほんとに行かないの?」


亜美は背中に隠れている私を振り返り聞いてきた。


「うん。それよりさ、ちょっと休憩しない?たこ焼き食べたい」

「もぉー。まぁでも確かにお腹空いたよね。あーでも、今年はわたあめ無しかぁ」


食べたいわけじゃないけどそれはそれでちょっと寂しいかもと、ほっぺを膨らませる可愛い亜美。


亜美は事情を知っているから無理強いをしてくることはない。それが有り難かった。


行かないというより、行けないんだ。

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