心の傷の痛みさえ
お店を出ると、来た時よりも少し気温が下がっていてやはりコートを持ってくればよかったと少し後悔する。

隣でボソリ、と何かつぶやいた和真を見上げた。
「なに?」
「本当に、もう気にしてないんだな?」
は?と一瞬考えて元カレの話だと思い至る。
「うん。なんで?」
バッグを持っていた手と反対側の指が繋がれる。
「・・かずま・・・?」
その繋がれた手の甲に和真の唇が触れた。
「もう遠慮なんかしないからな。」
「え?」
予想だにしなかった和真の行動に半ば呆然とする私に、和真はニヤリといつもの笑みを浮かべる。
「もう俺の事しか考えられないようにしてやる。」
すい、と視線が近づいて、ちゅ、という音と共に一瞬唇が重なった。
「覚悟しろよ?」
ニヤ、と笑う和真。
だけどその笑みがいつもの揶揄する笑みでは無くて、優しさを含んでいる事に気が付いた。
「・・・望むところよ。」
苦し紛れに吐き出した私の言葉に和真は笑った。
「とりあえず週末どっちか空けとけよ。どっか行こうぜ。」
「美味しいお酒飲める所、探しておいてね。」
「酒ありきかよ。」
手を繋いで駅まで向かう。
次会う時にはきっと和真の事がもっと好きになっている。
そんな予感を胸に、繋がれた指にほんの少しだけ力を込めた。
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