最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

18

 呆然とするナーディアを見て、ダリオはクスリと笑った。





「まあでも、今夜は、実にいい牽制になった。……特にあの、赤毛の男。コンテ伯の三男だったか。いつも君の傍にへばりついているので、不愉快で仕方なかったんだ」





「……もしかして、それで王宮近衛騎士団の皆を招待したのか?」





「当然だろう」





 ダリオが、けろりと答える。





「最後に、君の美しい姿を拝ませてやるのも悪くないだろう。僕と結婚すれば、彼らとはお別れなんだからな」





「ちょっと待てよ」





 ナーディアは、ダリオを見すえた。結婚自体もとんでもない話だが、今彼は、聞き捨てならないことを言わなかったか。





「ザウリ団長に言ったことは、本気なのか。私に、騎士団を辞めろと?」



「その通りだ」





 何の躊躇もなく、ダリオは答えた。





「大事な妻を、あんな野蛮な連中の傍に置くなど、考えただけでもゾッとする」



「野蛮だと!?」





 ナーディアは、顔色を変えた。王宮近衛騎士団は、王立騎士団員の中から特別に選ばれた存在だ。武芸の能力ももちろんだが、王室への深い忠誠心を持っている。文字通り体を張って、国王陛下以下、王族の警護に当たっているというのに……。





「あいつらを、侮辱するな。訂正しろ!」





 怒りに震えるナーディアを見て、ダリオは微かに顔をしかめたが、無視して続けた。





「もう十分だろう? 王太子殿下の護衛まで、務めさせていただいたんだ。騎士ごっこは終わりにして、侯爵夫人の道を選ぶのが、賢い選択だぞ?」





 ナーディアは、自分の耳が信じられなかった。今目の前にいるこの男は、侯爵家の跡取りとしてのプライドを振りかざしていたコルラードと、何ら変わりない。それに何よりも、ダリオは許せない言葉を放った。





(『騎士ごっこ』だと……?)





「お前は、私のキャリアを、そんな風に見てたのか」





 ナーディアは、ぽつりと呟いていた。怒りよりも湧き上がって来たのは、深い悲しみだった。大切な幼なじみとの友情は、たった今終わりを告げたのだ。





「兄上。いい加減になさったらどうですか」





 そこへ不意に、鋭い声が飛びこんで来た。ハッと振り返れば、ロレンツォの姿があった。
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