最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 見間違いかと思ったが、確かにコルラードだった。黒い髪にブルーの瞳、何よりも、ナーディアにそっくりの顔立ち。彼は、ナーディアを認めると、つかつかと近付いて来た。





「おお、ナーディア。店に来てくれて、ありがたい。お前に、話があってな……」



「その前に! 説明なさってください。兄様は、ここで働いているのですか?」





 じっと見すえれば、コルラードは苛立たしげに頷いた。





「仕方ないだろ。王都に留まっても恥をさらすだけだから、最初は領地へ行ったさ。でも、鋤や鎌を持った領民に追っかけられて。それで仕方なく王都へ戻った」





 そりゃあそうだろう、とナーディアは思った。コルラードが橋の建設工事でやらかしたことは、全領民が知っている。命拾いしただけでも、感謝すべきだ。





「ここなら、知り合いにも会わないと思って、働き始めた。まかないも出るからな」





 兄は、ぼそぼそと説明した後、虚勢を張るようにナーディアを見返した。





「でも、これは一時的なものだからな! 父上も、あの時はカッとなって僕を追い出したりなさったが、きっとすぐに思い直してくださるさ」





 まだそんな甘い期待を抱いている兄に、ナーディアは呆れた。だがコルラードは、さらにとんでもない台詞を放った。





「そうしたら今度こそ、アガタを迎えに行くぞ! どうせ、金持ちの爺さんに無理やり身請けされたんだろう。でも、彼女が本当に想っているのは僕……」





 プッツン、と頭の中で何かがキレた。





「この……。大馬鹿が!!」





 ナーディアは、盛大にコルラードを殴り倒していた。頭に血が上るのを、抑えられない。あれだけの領民を犠牲にして、何ら反省もないどころか、まだそんなことを言うか。この男が不甲斐なかったせいで、自分は今、キャリアを捨てて婿を取る状況にまで、追い詰められているというのに……。





「お前のせいで、モンテッラの家はめちゃくちゃだ!」





 地面に倒れ込んだコルラードに、もう一発ビンタを食らわせようと、腕を振り上げる。ナーディアの本気を悟ったのか、コルラードの顔に怯えが走った。





「ま、待て! 謝るから、話を聞け!」



「今さら謝っても……」



「あの、ロレンツォという男!」





 コルラードが、必死の形相でわめく。ナーディアは、ふと動きを止めた。





「くせ者だぞ! あいつは、計画的にフローラに近付いたんだ!」
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