最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「どんな女性だったのでしょう」





 ナーディアは、ぽつりと呟いていた。さあな、とオルランドが首をかしげる。





「さすがの俺も、そこまでは知らん。……ただ、珍しいエメラルドグリーンの瞳をした女性だった、と漏れ聞いたことはある」



「エメラルドグリーン!?」





 ナーディアは、身を乗り出していた。真っ先に浮かんだのは、ジャンニのことだった。





「バローネ伯爵と、そのエメリアという女性の間には、男の子がおりませんでしたか? 私より、二、三歳上くらいの」





 エメリアこそ、ジャンニの母親ではないかと思ったのだ。するとオルランドは、あっさり頷いた。





「確かに、いたな。母親と共に追放されたが……。ん、もしや、それがお前の言っていた、初恋の少年か? 異国へ移住した、と言っていたじゃないか」



「初恋ではありませんが……、そうです」





 ナーディアは、渋々認めた。





「あの時は、隠していて失礼しました。クーデターの関係者だと申したら、あなたがお気を悪くされるかと思ったのです」





「昔のことだ。そこまで、気を遣わんでいい。……しかしまあ、それでは再会は望めんな」





 そうですね、とナーディアは嘆息した。同時に、納得できた気がする。ロベルトが、ジャンニの話題をことさらに嫌ったのは、単に謀反人一族だったからではない。愛した女性と、その息子を処分しなければいけなかったことが、辛くてたまらなかったのだろう……。





 そこへ、マリーノが帰って来た。何やら、焦った顔をしている。





「ナーディア、少しいいだろうか。店の外で、お前をよく知っている人間と会った。お前と話したいと言って、裏で待っている。行ってあげてくれないか」





「一体、誰?」





 ナーディアはきょとんとしたが、マリーノは名前は告げなかった。





「とにかく、行けばわかる」



「はあ……?」





 オルランドに断って、ナーディアは店の外に出た。言われたとおりに店の裏に回ると、若い男が、一人で煙草を吹かしていた。服装から察するに、この店の従業員のようだ。彼と目が合ったとたん、ナーディアは大声を上げていた。





「コルラード兄様!?」
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