最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第十章 辺境訪問

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 新たな事態が発生したのは、その三日後だった。オルランドが突如、辺境コドレラへの訪問を決定したのだ。





 コドレラはラクサンド王国の北端に位置し、かねてから対立関係にある敵国・シリステラと国境を接する重要地域だ。オルランドは、一週間にわたりそこを視察すると共に、領主と会談を行うのだという。





 専属護衛たるナーディアも、当然随行することになったのだが、そこで異例の事態が起きた。オルランドが、ナーディアだけでなくロレンツォも同行させると宣言したのだ。





 これまでオルランドが他都市を訪問する際は、ナーディア以外の護衛は、一般の王立騎士団員から選ばれるのが慣例であった。他の王宮近衛騎士団員には、それぞれ他の王族の警護や王宮内の警備という任務があるため、王宮に留まる必要があるからだ。





 オルランドはその理由を、『ロレンツォも故郷が懐かしいだろう』とあっさり説明した。コドレラは、ロレンツォの出身地なのである。とはいえ、前例のない措置に、皆は驚きを隠せなかったし、ナーディアは(あるじ)の真意を測りかねた。伊達にオルランドと、日々一緒に過ごしているわけでない。彼は、何やら企んでいる気がしてならなかった。





 これには、ロレンツォの父フェリーニ侯爵も、たいそう驚き恐縮した。彼は、『専属護衛の方がいらっしゃるのに、失礼にあたらないか』とわざわざ申し出たそうだ。だがオルランドは、気にするなの一言で却下したのだった。





 だがその一方で、ナーディアはほっとしていた。突然のコドレラ訪問が決まったおかげで、結婚と護衛辞退の話が、一時保留になったからだ。逃げに過ぎないことはわかっていたが、この期間だけは護衛任務に集中しよう、とナーディアは心に決めたのだった。





 ちなみにコルラードから聞いた話を、ナーディアは父やフローラに伝えなかった。婚約のきっかけは何にせよ、ロレンツォが有能で、領民から慕われる存在であることに変わりはない。未だに娼婦にとち狂っているコルラードよりも、後継者としてふさわしいのは確かだ。だとすれば、余計なことを耳に入れるべきでないと判断したのである。特にフローラは、宮廷舞踏会でのロレンツォの行動に、ひどく感激していた。舞台裏を知れば、姉はさぞかしショックを受けるだろうと、ナーディアは慮ったのだった。
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