最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「十四年前、八歳の年……。ちょうどあの大会の後だ。王立騎士団の連中がやって来て、父上はあっという間に連れられて行った。わけがわからないまま、母上と俺も連行された。今にして思えば、お前に、あの花をやろうと思ったのは、それを予感していたからかもしれない」





 ロレンツォは、一瞬懐かしげな眼差しをした。





「俺と母上は、ラクサンドを追われたんだが……。そんな俺たちを、追って来てくれた方がいた。それが、マクシミリアーノ様だ。俺たちは彼の口から、父上が断頭台送りになったと聞いた」





「……」





「マクシミリアーノ様は、父上……イヴァノの友人だった。大切な友人の妻と子の力になりたいと仰って、彼は俺たちを、こっそりラクサンドへ連れ戻してくださった。そして、ここコドレラに匿われたんだ。だが、それは半分口実だったのろう。子供心にも、マクシミリアーノ様が母上に対して抱く想いは、薄々察知していた。そして、それにすがった母上を責める気はしなかった。そうしなければ、俺たちは生きていけなかったからだ」





 ナーディアは、ガラス細工店の女店主の話を思い出していた。フェリーニ侯爵は、心からエメリアを愛していたのだろう。





「だが」





 そこでロレンツォは、じろりとナーディアを見すえた。





「マクシミリアーノ様は、衝撃の事実を告げられた。父上……イヴァノ・ディ・バローネは、クーデターに関わってなどいなかったのだ。彼は、無実だった。その父上を、謀反人チェーザレ一派として逮捕し、断頭台へ送ったのが、当時の王立騎士団長・ロベルト・ディ・モンテッラ伯爵……、お前の父親だ!」





 ナーディアは、耳を疑った。





「捕らえた謀反人の数が多ければ多いほど、手柄になるからな。だからモンテッラ伯爵は、無実の父上まで逮捕した。……そして、理由はもう一つ。モンテッラ伯爵は、俺の母上に惚れていた。母上を射止めた俺の父上が、奴は憎かったんだ」





 ロレンツォは、ナーディアをにらみつけると、こう言い放った。





「俺は、八歳の年に誓った。絶対にこの手で、ロベルト・ディ・モンテッラに復讐するとな!」
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