最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

「ザウリ団長は、お前とつるんでいたのか!?」



 



 ナーディアは、目を剥いた。いや、とロレンツォがかぶりを振る。





「正確には、マクシミリアーノ様と、だ。ザウリ様は、出世欲の強い男だ。彼は、団長の座を狙っていた。最も剣術に優れた者が、王立騎士団長に選ばれるのが、この国の習わし……。五年前の当時、確かにザウリ様は剣術でトップだった。だがそんな状態は、いつまでも保てるとは限らない。特にその当時、士官学校には、優れた剣の遣い手が二人もいたからな」





 まさか、とナーディアは思った。





「そうだ。一人目は、マリーノ。二人目は、猛将モンテッラの娘・ナーディア……。いずれお前たちが入団すれば、抜かされるのは目に見えている。だからザウリ様は、自分がトップの座にいるうちに、モンテッラ団長に引退していただこうと目論んだんだ」





「そんなことで……」





 自分の存在が、結果的に父の引退を引き起こしたとは、想像もしなかった。ナーディアは、愕然とした。





「そこで手を差し伸べたのが、マクシミリアーノ様だ。王立騎士団が、盗賊団の討伐に出かけると知った彼は、盗賊団の一味と通じた。そして討伐中、騎士団の一人を狙わせた。モンテッラ団長の性格上、必ず部下を庇うことを想定して……。予想通り、部下の代わりに犠牲になった彼は脚を負傷し、引退した。こうして首尾良く、ザウリ様は団長に昇格。それは、マクシミリアーノ様が打った布石だった」





「恩を売った、ということだな。お前が王宮近衛騎士団に入団するための」





 その通りだ、とロレンツォは言った。





「敵に近付くためには、まずは王都へ移らなければ始まらない……。それに、すでに当時、俺には計画があった。モンテッラ家に入り込み、ロベルト・ディ・モンテッラが築き上げてきた全てを奪おうと。具体的には、長男を追い出し、長女の婿として収まることだ。そのためには、王宮近衛騎士団に所属していた方が、婿として箔が付く」





 ロレンツォは、二杯目のリキュールを飲み干した。





「そして、ようやくその時期が訪れた。フェリーニ夫人と俺の母上が亡くなったのを機に、俺はマクシミリアーノ・ディ・フェリーニ侯爵の隠し子として、フェリーニ家へ迎え入れられた。誰も、疑う者はいなかった。ダリオ様も、内心はともかく、表面上は俺を受け入れた。彼は俺を、義理の弟と信じている」





 ダリオがガラス細工の店で聞き込みをしていたことが脳裏をかすめたが、ナーディアは黙って頷いた。





「ザウリ様も、内実はご存じない。恩人・フェリーニ侯爵の庶子として、仕方なく俺を入団させた。……さあ、本格的な復讐の始まりだ」
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