最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

「お父様が、ここへ来られたのですか? それで、ロレンツォの話をしたのですか? ……そもそも兄様はなぜ、ロレンツォがバローネ伯爵の子だとご存じなのです!?」





「いっぺんに質問するな! 混乱するだろうが」





 コルラードは、顔をしかめた。





「お前が、ここに運び込まれて来た晩のことだよ。ナーディアがすごい怪我をしたと、ダリオが真っ青になっていたから、さすがに心配になってな。部屋まで見に行った。そうしたら、お前とダリオが話しているのが聞こえたんだよ」





 なぜか得意げに、コルラードが胸を張る。





「だから、言っただろうが。あいつはくせ者だと。いち早く気付いたのは、僕……」





「お父様は、それを聞いて何と!?」





 言葉を遮られて、一瞬ムッとしつつも、コルラードは答えた。





「真っ青になっておられたぞ。婚約は解消だ、とも言っておられた」





 ナーディアは、血の気が引くのを感じた。フローラとの婚約話がなくなったということは、ロレンツォの計画が失敗に終わったことを意味する。……すなわち、彼は即座に、ロベルトの命を狙いにかかるだろう。





「万々歳だな! どうだ、僕は利口だろう……」



「この、大馬鹿者がっ」





 ナーディアは、力任せにコルラードの脛を蹴り飛ばしていた。コルラードが、血相を変える。





「何をするんだ!」



「お前のせいで、お父様のお命が危ないんだ!」





 こうはしていられない、とナーディアは踵を返した。過去に卑劣な行いをしようとも、ナーディアを一方的に罵ろうとも、やはり愛する父だ。守りたかった。





(モンテッラの家へ行かねば……。いや、武具は全て騎士団の寮だ。先に、あちらへ……)





 だが、部屋を出ようとしたナーディアの前に、ダリオが立ち塞がった。





「君はここから出るな」





 ダリオは、鋭い声音で告げた。
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