最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第十四章 婚約解消

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 それから一週間、ナーディアはフェリーニ邸で過ごした。治りきっていないところへ無茶をしたせいで、完治にはまだまだ時間が必要と言われたのだ。こんなに長く休んでよいのだろうかとナーディアは案じたが、ダリオは、オルランドもザウリも了承していると言った。使用人たちも、至れり尽くせり世話をしてくれる。申し訳ないとは思いつつも、モンテッラ邸へ帰りたくないという気持ちが先立ち、ナーディアはついずるずると滞在してしまったのだった。





(しかし、暇だな)





 その日の夜、診察を受け終えたナーディアは、ため息をついた。今日も医者は、『復帰はまだ無理』と告げたのだ。常に体を動かしたい性質のナーディアにとって、この生活はほぼ拷問である。





(屋敷内を歩くくらい、いいだろう)





 ダリオも使用人もいないのをいいことに、ナーディアは部屋を抜け出した。これは復帰準備だと自分に言い聞かせながら、フェリーニ邸内を歩いて回る。すると、客間らしき部屋から、人の気配がした。予感がして、半分開いた扉の隙間から、チラとのぞいてみる。案の定そこには、コルラードの姿があった。ソファに寝そべりながら、焼き菓子をむさぼり食っている。





「おお、ナーディアか。大怪我した割には、元気そうじゃないか。やっぱりお前は、頑丈だな」





 脳天気な調子で言われ、ナーディアは思わず声を尖らせていた。





「何してらっしゃるんです!」



「ここの食事が美味くてな。居酒屋の平民の味もいいが、やはり僕のような高貴な生まれの人間には、質の良い料理でないと」





 そう言うコルラードは、以前よりも血色が良くなった気がする。そもそも、この男さえしっかりしていれば、モンテッラ家はここまで混乱せずに済んだのだと思うと、ナーディアはムカムカしてきた。





「遊んでらっしゃる場合ではないでしょう。そんなことでは、モンテッラ家へ戻れませんよ?」





「ガミガミ言うなよ。それに、心配ご無用! 父上は、必ず僕を呼び戻してくださるさ」





 コルラードが、ナーディアの方を向いて座り直す。その口調は妙に自信ありげで、ナーディアは不思議に思った。





「ダリオの奴が、なかなか僕をモンテッラ家へ帰してくれないんだよ。時期尚早、とか言って……。だから僕は、この前父上が来られた時、言ってやったんだ。ロレンツォは、バローネとかいう謀反人の子ですよ、とな」





「何ですと!?」





 ナーディアは、パニックになるのを感じた。
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