最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

11

「ロレンツォ、お前……」





 ナーディアは、複雑な思いに駆られた。計画が失敗したということは、ロベルトを手にかけるつもりだろうか。そう聞きたかったが、口にするのが恐ろしかった。するとロレンツォは、不意に体を離すと、ナーディアの目を見て告げた。





「安心しろ。俺はもう、お前の父親を殺さないと決めた」



「――本当か?」





 にわかには信じがたかった。コドレラでのあの夜、あれほどロベルトへの憎しみを訴えていたではないか……。するとロレンツォは、意外なことを言い出した。





「一週間、お前を放置した理由は、他にもある。実は、復讐よりも大切なことが発生したんだ。今日まで俺は、それにかかりきりだった」





 さっぱり見当がつかず、ナーディアはきょとんとした。真剣な眼差しで、ロレンツォが続ける。





「それが成功すれば、父上の名誉は回復される。俺はもう、自分の正体を偽らなくても済むようになるんだ。堂々と、ジャンニ・ディ・バローネとして生きていけるようになる……。だから、ロベルト・ディ・モンテッラへの憎しみが消えたわけではないが、復讐は取り止めるつもりだ。これは、神に誓う」





「ええと……、具体的に、何をするんだ?」





 ロレンツォは、申し訳なさそうにかぶりを振った。





「悪い。これ以上は、言えないんだ……。でもナーディア、一つお前に聞きたい。俺が、ジャンニ・ディ・バローネとして正々堂々と生きていけるようになれば……、お前に求婚してもいいか?」





 ナーディアは、目を見張った。





(いや、無理だろう)





 いくらフローラとの婚約を解消し、ロベルト殺害計画を取り止めたとしても、問題は山積みだ。王妃との約束もさることながら、父ロベルトが許すはずないではないか。





「外野の思惑は考えるな。お前の気持ちが知りたい」





 ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳は、ナーディアの不安をお見通しのようだった。





「ナーディア。答えてくれ」





 ナーディアは、視線を逸らして呟いた。





「答は、わかってるだろう。もう他の男とは結婚できない体なんだ。それを見越していたくせに」





 いくらダリオが気にしないと言ってくれても、汚れた体で嫁ぐなど、ナーディアにはできなかった。それに……、何よりも。ロレンツォを愛しているのだ。他の男など、考えられなかった。
< 174 / 200 >

この作品をシェア

pagetop