最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第十五章 第二のクーデター
1
翌朝ナーディアが目覚めると、隣にロレンツォの姿はなかった。室内は、整然と片付いている……。冷たく感じるほどに。そこからは、一切の武具が消えていた。
ふと、机上に封筒が置かれているのに気付いた。『ナーディアへ』と書かれている。開封しかけたその時、ナーディアは廊下が騒々しいのに気付いた。まだ、調練には早すぎるというのに……。そこへ、こんな声が飛びこんで来た。
「クーデターだと!?」
「十四年ぶりに、こんなことが……」
(クーデター!?)
ナーディアは、手紙を手に部屋を飛び出した。同僚らが、武具を携えて、廊下を走っている。ナーディアがロレンツォの部屋から出て来たのを見ても、それどころではない様子だった。
ナーディアは、慌てて自室へ戻った。制服に着替え、剣を身に着ける。
部屋を出ようとして、ナーディアはふと思いついた。書棚の前へ進み、一冊の本を取り出す。そこから、カードを抜き取った。ロレンツォが……ジャンニがくれた、ワスレナグサの押し花だ。
懐に、カードとロレンツォからの手紙を押し込むと、ナーディアは駆け出した。部屋を出て、同僚らの後に続く。寮の前には、王宮近衛騎士団のメンバーのほとんどが集結していた。ザウリが、真剣な表情で怒鳴っている。
「皆、よく聞け。シリステラは、イリヴェンに攻め込んだ。マルコ四世陛下は、イリヴェンからの援軍要請に基づき、兵を率いて出立しようとなされたのだが。……オルランド殿下はそれに反旗を翻された! 今、王宮前の広場には、オルランド殿下に賛同した各地の領主らが集結して、デモを行っている!」
皆が、一斉にざわめく。ザウリは、いっそう声を張り上げた。
「オルランド殿下は、国王陛下を廃し、ご自分が王位に就かれるおつもりだ。我々王立騎士団は、一致団結して国王陛下をお守りする。皆、わかったな!」
ナーディアは、まざまざと思い出していた。コドレラで、ナーディアが負傷した時。オルランドはこう尋ねなかったか。
――お前は、『王太子』の護衛でいたいのか。それとも、俺の護衛でいたいのか……。
(殿下はこの日を見越して、私に選択を迫られたのだ……)
王宮近衛騎士団の騎士たちは、早速出発しようとしている。だがザウリは、彼らを押し止めた。
「待て。もう一つ、言っておくことがある。実は、この王宮近衛騎士団から、すでに一人裏切り者が出た。オルランド殿下側に付いたのだ」
名前を出さずとも、誰なのかは明白だった。ここにいるべき人間が、一人だけ欠けている……。ロレンツォだ。
「ロレンツォはもう、我々の仲間ではない。奴は敵だ。心してかかれ!」
皆が、しんと静まりかえる。その中でマリーノだけが、「当然」と呟いた。
ふと、机上に封筒が置かれているのに気付いた。『ナーディアへ』と書かれている。開封しかけたその時、ナーディアは廊下が騒々しいのに気付いた。まだ、調練には早すぎるというのに……。そこへ、こんな声が飛びこんで来た。
「クーデターだと!?」
「十四年ぶりに、こんなことが……」
(クーデター!?)
ナーディアは、手紙を手に部屋を飛び出した。同僚らが、武具を携えて、廊下を走っている。ナーディアがロレンツォの部屋から出て来たのを見ても、それどころではない様子だった。
ナーディアは、慌てて自室へ戻った。制服に着替え、剣を身に着ける。
部屋を出ようとして、ナーディアはふと思いついた。書棚の前へ進み、一冊の本を取り出す。そこから、カードを抜き取った。ロレンツォが……ジャンニがくれた、ワスレナグサの押し花だ。
懐に、カードとロレンツォからの手紙を押し込むと、ナーディアは駆け出した。部屋を出て、同僚らの後に続く。寮の前には、王宮近衛騎士団のメンバーのほとんどが集結していた。ザウリが、真剣な表情で怒鳴っている。
「皆、よく聞け。シリステラは、イリヴェンに攻め込んだ。マルコ四世陛下は、イリヴェンからの援軍要請に基づき、兵を率いて出立しようとなされたのだが。……オルランド殿下はそれに反旗を翻された! 今、王宮前の広場には、オルランド殿下に賛同した各地の領主らが集結して、デモを行っている!」
皆が、一斉にざわめく。ザウリは、いっそう声を張り上げた。
「オルランド殿下は、国王陛下を廃し、ご自分が王位に就かれるおつもりだ。我々王立騎士団は、一致団結して国王陛下をお守りする。皆、わかったな!」
ナーディアは、まざまざと思い出していた。コドレラで、ナーディアが負傷した時。オルランドはこう尋ねなかったか。
――お前は、『王太子』の護衛でいたいのか。それとも、俺の護衛でいたいのか……。
(殿下はこの日を見越して、私に選択を迫られたのだ……)
王宮近衛騎士団の騎士たちは、早速出発しようとしている。だがザウリは、彼らを押し止めた。
「待て。もう一つ、言っておくことがある。実は、この王宮近衛騎士団から、すでに一人裏切り者が出た。オルランド殿下側に付いたのだ」
名前を出さずとも、誰なのかは明白だった。ここにいるべき人間が、一人だけ欠けている……。ロレンツォだ。
「ロレンツォはもう、我々の仲間ではない。奴は敵だ。心してかかれ!」
皆が、しんと静まりかえる。その中でマリーノだけが、「当然」と呟いた。