最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

「いざ出陣!」





 ザウリが、高らかな声を上げる。ナーディアは、叫んでいた。





「従えぬ!」



「何!?」



 



 ザウリはじめ、全員がナーディアの方を振り返る。マリーノは、つかつかと近付いて来た。





「男を取るのか?」



「笑止」



 



 ナーディアは、鼻で笑った。





「私は、オルランド殿下の専属護衛だ。何があろうとも、彼をお守りすると誓った。国王陛下の側に付かれるのなら、あなた方とはもうお別れだ!」





 言い捨てて、ナーディアは踵を返した。背後では、ざわめきが聞こえる。「ロレンツォとナーディアが相手か」という同僚らの不安の声と、それを制するザウリの声。ナーディアは、無視して駆け出した。武装し、愛馬にまたがって、出発する。向かう先は、もちろん広場だ。





(オルランド殿下。私が、お守りしますぞ……)





 すると、後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。三人の同僚騎士が、追いかけて来たのだ。ナーディアの横に並ぶ。





「ナーディア。俺たちは、お前らに加勢するぞ!」





 耳を疑った。一人が、微笑む。





「マルコ四世陛下は、戦いにかまけて、国内のことも王宮近衛騎士団のことも放置なさってきた」



「そのせいで、ザウリ団長はやりたい放題! 我々を気にかけてくださったのは、オルランド殿下だ」



「殿下に味方するぞ!」





 ナーディアは、思わず顔がほころぶのを感じていた。





「心強いな。よし、共に行こう!」





 





 広場に到着したナーディアは、目を見張った。そこには、数百名の人々が詰めかけていたのだ。見知った顔も多かった。サルトール辺境伯はじめ、地方の領主たちとその家臣たち。皆、口々にオルランドを支持する声を上げている。オルランドが国内を視察に飛び回っていたのは、このためだったのかとナーディアは悟った。父マルコ四世に代わって国内状況を把握し、なおかつ領主らを味方に付け……。





 群衆の中心には、果たしてオルランドの姿があった。珍しく、軍服姿だ。そして傍らには、予想通りロレンツォが控えていた。





「オルランド殿下!」





 喧噪の中でも、二人の男は、ナーディアの声を捉えたようだった。オルランドが、ニッと笑う。





「ようやく来たか。俺の専属護衛が」
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