最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

 戦いは、思いのほか長期に及んだ。当初は、オルランド勢が圧勝するものと思われた。人数もこちらが多い上、ナーディア、ロレンツォという二人のトップ騎士が付いている。





 それに何といっても、団結力が違ったのだ。国内のことに無頓着だったマルコ四世に代わって、オルランドは各地方領主と積極的に関わり、彼らの陳情を聞いてきた。彼らは、オルランドに期待をかけたのである。特に、たぐいまれな忠義心を発揮したのが、サルトール辺境伯だった。セルジオ事件で処分を覚悟していたところ、免れたことで、彼はオルランドに恩義を感じていたのだ。





 とはいえ、オルランド勢は意外と苦戦することになった。というのも、国王側にロベルトが付いたからである。最初は引退した身ということで遠慮していた彼だったが、ザウリが今ひとつ頼りないせいだろう。積極的に指揮を執るようになった。年を重ね、健康体とはいえない状態でも、数々の実戦を経てきた彼の指示は、実に的確だった。





 強敵を前にしつつも、オルランドはうろたえることもなかった。むしろ、余裕の表情を浮かべている。何やら秘策があると見えた。そして膠着状態のまま、戦いは三日目に突入した。





 その日もナーディアは、得意の槍で敵側を攻撃していた。小気味よいばかりになぎ倒していたその時、よく知る男がスッと近付いて来た。ダリオだった。





(悪いけど……。あなたも、倒さないといけない)





 だがその時、ダリオが叫んだ。





「ナーディア、ロレンツォに伝えろ。バローネ伯爵は、無実ではなかった。本当に、謀反人だったんだ!」





「何……!?」





 混乱させて、油断させようとしているのではないだろう。ダリオは、そんな人間ではない。周囲の手前、戦っているふりをしながら、ナーディアは彼の言葉に耳を傾けた。





「父の書斎から見つけ出した。バローネ伯爵の日記だ。チェーザレ殿下に賛同すると書いてある。そして、チェーザレ一派の会合の記録。確かに、彼は加わっている。……なぜかはわからないが、父はロレンツォに、彼は無実だったと吹き込んだ。そして、ロベルト様への憎しみを抱かせたんだ!」





 ダリオはナーディアに、書類を突き出した。





「早くロレンツォに、これを渡せ! このままではこの戦いに乗じて、ロレンツォはロベルト様のお命を狙うかもしれない!」



 



 ダリオの瞳には、激しい焦りと動揺が浮かんでいた。
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