最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

4

 王都で発生した、オルランド王太子によるクーデターは、次第に規模を拡大していった。マルコ四世は王宮内に匿われ、ザウリ率いる王立騎士団及びロベルトが、表に出て戦った。王室と関わりの深い一部の貴族らも、彼らに加わった。そこには、フェリーニ家を代表するダリオの姿もあった。





 一方オルランド側に付いたのは、ナーディア、ロレンツォ及び離反した三人の王宮近衛騎士団員と、それ以外の貴族らだ。オルランドに付いたメンバーを知って、ナーディアは驚いた。ロレンツォだけでなく、かつてチェーザレに賛同してマルコ四世に謀反を企てたメンバーの、縁繋がりの者が多く含まれていたのだ。オルランドは、その理由についてこう語った。





『故チェーザレ殿下は、単に武力で王位を強奪しようとしたのではない。先代の王は、イリヴェン・シリステラ間の戦争に首を突っ込んでばかりで、年中国を空け、国内のことは放ったらかしだった。挙げ句、それに乗じてラクサンド兵がイリヴェンで横暴な振る舞いをするのも、見て見ぬふりした……』





 ナーディアは、セルジオのことを思い出していた。





『兄マルコ四世が、先王のそのやり方を踏襲しようとするのを見て、チェーザレ殿下は止めようと立ち上がられた。クーデターのメンバーは、そんな彼の考えに共鳴した、憂国の士だったのだ……』





 オルランドは、今回のクーデターが成功した暁には、かつて謀反人として処罰された者たちの名誉を回復すると約束して、その縁の者たちを取り込んだ。真っ先に選ばれたのは、ロレンツォだった。居酒屋でのナーディアとの会話から、オルランドは、彼がバローネ伯爵の遺児ではないかと見抜いたのである。コドレラを訪問した際、オルランドはその事実を確かめ、王都へ帰還後、ロレンツォに協力を求めたのだ。





『国外追放されながらも、ラクサンドでしたたかに生き延びてきた男だ。味方に付ければ、必ずや役立つことだろう』





 オルランドはナーディアにだけ、こっそりそう話した。一方ロレンツォは、ナーディアにこう語った。



 



『本当は無実だったことも証明したいが、ひとまず父上の名誉が回復されるなら、これほど喜ばしいことはない。だから、協力申し上げるとお答えした』





 彼が一人息子だったため、バローネ家の爵位は途絶えていたのだが、オルランドはそれを復活させると約束したのだという。つまりクーデター後には、ロレンツォはバローネ伯爵となる。さらにはオルランドから、相応の役職を保証されたのだそうだ。こうなった以上は、殺人など起こしてオルランドの顔を潰すわけにはいかない。ロレンツォがロベルト殺害を中止すると言ったのには、そんな背景があったのだ。
< 179 / 200 >

この作品をシェア

pagetop