最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
4
ナーディアは、返事に困った。
「でも、それとこれとは別の話だし……」
「じゃあ、いつぞや君の足にマメをこしらえたお詫び、ということにしよう」
ダリオはクスッと笑った後、不意に真顔になった。
「父が、本当に申し訳ないことをした。だがよく考えたら、僕も彼のことは言えない。ずっと、家柄にあぐらを掻いてきた。フェリーニ侯爵家の跡取りという地位さえあれば、君はいつでも手に入るものと、慢心していた」
ナーディアは、亡くなる直前のフェリーニ侯爵の言葉を、思い出していた。
――この私が、フェリーニ侯爵夫人として迎えようと言ってやったのに……。
「その点、ジャンニには脱帽するしかない。ゼロ……いやマイナス地点からのスタートにもかかわらず、君を手に入れたんだ。潔く、負けを認める」
「……マクシミリアーノ様と、ダリオは違うわよ」
ナーディアは、激しくかぶりを振っていた。ネックレスを指しながら、訴えかけるように言う。
「ダリオには、こういう優しさがあるわ」
一瞬、ダリオの顔が歪んだように見えた。
「そういうことを言わないでくれ……。未練が募る。旅に出るのは、君を忘れるためもあるんだから……」
早口でそう告げると、彼は席を立った。
「もう行くの?」
「ああ」
長い付き合いの幼なじみとの別れが、こんなに唐突にやって来るなんて。引き留めたかったが、ダリオの横顔を見ていると、決意は固いとわかった。
何を話してよいかわからないまま、二人して無言で面会室を出る。寮の外に出ると、ダリオはふとナーディアの肩を指した。
「シャツ。ゴミが付いている」
「え、どこ?」
斜め下を向いた瞬間、ダリオは素早くナーディアの頬にキスをした。
「ちょっ……」
「やっぱり君は、何回でも僕に騙されるな」
ダリオは、クスクス笑っている。だが、彼のグレーの瞳には、深い悲しみが宿っているのにナーディアは気が付いていた。やるせない思いが、込み上げてくる。
(ジャンニ、ごめん)
心の中で謝ってから、ナーディアはダリオの首に腕を回して、引き寄せた。その唇に、軽く一瞬口づける。
「ナーディア……?」
ダリオは目を見開いたまま、しばらく呆然としていたが、やがて微笑んだ。
「最高の、餞別をいただいた」
そう言って彼は、振り返ることなく去って行ったのだった。
「でも、それとこれとは別の話だし……」
「じゃあ、いつぞや君の足にマメをこしらえたお詫び、ということにしよう」
ダリオはクスッと笑った後、不意に真顔になった。
「父が、本当に申し訳ないことをした。だがよく考えたら、僕も彼のことは言えない。ずっと、家柄にあぐらを掻いてきた。フェリーニ侯爵家の跡取りという地位さえあれば、君はいつでも手に入るものと、慢心していた」
ナーディアは、亡くなる直前のフェリーニ侯爵の言葉を、思い出していた。
――この私が、フェリーニ侯爵夫人として迎えようと言ってやったのに……。
「その点、ジャンニには脱帽するしかない。ゼロ……いやマイナス地点からのスタートにもかかわらず、君を手に入れたんだ。潔く、負けを認める」
「……マクシミリアーノ様と、ダリオは違うわよ」
ナーディアは、激しくかぶりを振っていた。ネックレスを指しながら、訴えかけるように言う。
「ダリオには、こういう優しさがあるわ」
一瞬、ダリオの顔が歪んだように見えた。
「そういうことを言わないでくれ……。未練が募る。旅に出るのは、君を忘れるためもあるんだから……」
早口でそう告げると、彼は席を立った。
「もう行くの?」
「ああ」
長い付き合いの幼なじみとの別れが、こんなに唐突にやって来るなんて。引き留めたかったが、ダリオの横顔を見ていると、決意は固いとわかった。
何を話してよいかわからないまま、二人して無言で面会室を出る。寮の外に出ると、ダリオはふとナーディアの肩を指した。
「シャツ。ゴミが付いている」
「え、どこ?」
斜め下を向いた瞬間、ダリオは素早くナーディアの頬にキスをした。
「ちょっ……」
「やっぱり君は、何回でも僕に騙されるな」
ダリオは、クスクス笑っている。だが、彼のグレーの瞳には、深い悲しみが宿っているのにナーディアは気が付いていた。やるせない思いが、込み上げてくる。
(ジャンニ、ごめん)
心の中で謝ってから、ナーディアはダリオの首に腕を回して、引き寄せた。その唇に、軽く一瞬口づける。
「ナーディア……?」
ダリオは目を見開いたまま、しばらく呆然としていたが、やがて微笑んだ。
「最高の、餞別をいただいた」
そう言って彼は、振り返ることなく去って行ったのだった。