最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

 王宮を出たナーディアは、かつての王宮近衛騎士団の寮へ向かった。ジャンニの新しい屋敷へ移るまでは、ここで過ごすつもりなのである。





 新しい王立騎士団のメンバーを迎えて、寮はすっかり様変わりしていた。ナーディアの部屋の扉にあった落書きも、掃除されて跡形もなく消えている。今度は女性騎士が大勢入って来るのかと思うと、ナーディアは楽しみで仕方なかった。





 寮の前まで来て、ナーディアは目を見張った。ダリオが佇んでいたのだ。旅支度をしている。





「お別れの挨拶に来た」





 彼は、短く告げた。





「君も承知の通り、我が家は爵位も領地も全て失ったからね。これを機に、旅に出ようと思う」





「どこへ行くの?」





「シリステラ」





 ダリオは、あっさり答えた。





「元々、異文化には関心があったからね。これを機に、外国を放浪しようかと思って。オルランド陛下のおかげで、かつての敵国にも行きやすくなったことだし」





 オルランドは、コドレラにあったシリステラとの国境沿いの要塞を、すでに取り壊しつつある。もはや敵国ではないという表明だそうで、シリステラへ通じる道も整備するのだとか。彼が砦を視察に訪れたのは、それを計画していたからだったのだ。





「そんな急な……。えーと、お茶でも飲んで行って」





 このまま別れてしまうのでは、あっけなさすぎる。ナーディアは、彼を面会室に通すことにした。





 ティーカップを前に向かい合うと、ダリオは荷物の中から何やら小箱を取りだした。





「これを、君に」





 ナーディアは、目を見張った。それは、あのサファイアのネックレスだったのだ。……完璧に、修理された。





「これ……。ああ、なかなか取りに行けなくて悪かったわ。クーデターやら火事やらで……」





 そこでナーディアは、思い出した。





「そうだ。ネックレスが壊された話、お父様にしたのですって? フローラ姉様がやったと、話したの?」





「うん。荷物の中を勝手に見たのは悪かったけれど、贈った人間も壊した人間も、予想が付いたからね。大当たりだったろう?」





 茶をすすりながら、ダリオがこともなげに言う。





「ええ、それはそうなんだけど……。修理まで? 修理代、払わなくちゃ」





 ナーディアは、バタバタと席を立とうとしたが、ダリオは押し止めた。





「必要ない」



「でも……」



「これくらいでしか、償えないんだ。父の行いは、許されるものではない……」
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