最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

6

「俺な。この前、マリーノと話す機会があったんだ」





 え、とナーディアはジャンニの顔を見上げた。





「クーデターの最中、フローラが連絡をよこしてきて、お前を殺せと言ったらしい。でも、それはできなかったと言っていた。で、俺を狙ったと。殺したいほど憎かったし、今でも殺したいと言っていた」





 ジャンニは、フンと鼻を鳴らした。





「殺せるものなら殺せ、と言っておいたさ」



「もう、お前は……」





 苦笑してしまう。ジャンニは、ナーディアの肩を抱いた。広場では、騎士たちがイキイキと剣を交えている。そんな彼らを見ながら、ジャンニはふと呟いた。





「ここにセルジオがいたらな、と思う」





 ドキリとした。





「間違った方向に突き進んでしまったが、本当に強い騎士だったんだ。お前には不快な思いをさせたが、俺にとっては親友だった。だから、落ち着いたら墓参りに行きたいと思う」





 うん、とナーディアは静かに同意した。





「……それから」





 ちょっとためらってから、ジャンニが続ける。





「それこそお前には言いづらいんだが、マクシミリアーノ様の墓にも。ロベルト様やモンテッラ家にはひどいことをなさったが、彼のおかげで俺が生き延びられたのも事実だ。あのまま母上と共に追放されたきりだったら、野垂れ死んでいたかもしれない……」





「いいって。墓参り、行こう。私も行くよ」





 ポンポンと背中を叩けば、ジャンニは驚いたようにナーディアを見つめた。





「本当か?」





「ああ。だって、彼がお前をラクサンドに連れ戻さなかったら、お前と再会できていないもの。その点だけは、感謝しているんだ」





「ナーディア……」





 ジャンニが、感極まったような声を上げる。その時、一つの試合が終了を告げた。ということは、そろそろ出番かとナーディアは思った。この試合は、トーナメント形式なのである。もちろん、ナーディアもジャンニも、順調に勝ち上がっている。





「そろそろか? なら、これ食ってけ」





 そう言ってジャンニが差し出したのは、焼き菓子だった。ナーディアは、眉をひそめた。





「甘い物は、苦手だと……」



「糖分も必要だ。それに、本当は好きなんじゃないのか?」



「どうして?」





 ジャンニがなぜそう言うのか、わからない。すると彼は、ふっと笑った。





「ダリオ様が旅に出られる前、お前たち三兄姉妹の、子供時代の話を聞かせていただいた」



「えーっと……」





 何だか、嫌な予感がする。ジャンニは、ますます悪戯っぽい笑みを浮かべた。





「いつも同じパターンだったと。おやつの時間になると、コルラード殿がもっと食べたいと暴れる。フローラ嬢は、兄に譲るも、その後なぜか体の具合が悪くなる。するとお前が、自分の分を姉に譲るのだとか」





「ダリオの奴……。何バラしてんだよ……」





 ナーディアは、顔を覆った。まあ聞け、とジャンニがなだめる。





「それでダリオ様が、ご自分の分をお前にやろうとすると、お前はこう言ったんだってな。『私は甘い物が好きじゃないから』と。でも、それは本当か? 自分に、そう思い込ませていたんじゃないのか?」





 そうかもな、とナーディアは思った。甘ったるい、可愛らしいお菓子は自分には似合わないと、無意識に思っていた気がする……。
< 198 / 200 >

この作品をシェア

pagetop