最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

7

「ありがとう」





 ナーディアは、素直に菓子を受け取った。むしゃむしゃ食べていると、ジャンニが呟いた。





「ダリオ様、無事発たれたのだろうか」



「そう……だな」





 ふと、彼との別れが蘇る。一瞬言葉に詰まったのを、ジャンニは見逃さなかったようだった。





「何赤くなってる?」



「べ……、別に!?」



「ふうん?」





 ジャンニが、ナーディアの顔をじろじろと眺め回す。やがて唐突に言った。





「別れのキスでもされたか?」



「なっ……、いや!?」





 声が裏返ってしまう。これでは、認めたも同然だった。怒っただろうか、と恐る恐るジャンニの顔を見るが、彼は意外にも笑みを浮かべていた。





「お仕置きが必要だな」



「……何だよ!?」





 ジャンニは、しばらく間を置いてから、こんなことを言い出した。





「一日、女言葉で喋ってもらおうか」



「ええ、何だよ、それ! 第一、無理だし!」





 男言葉が板に付きすぎて、到底自信がない。だがジャンニは譲らなかった。





「俺はな、お前がダリオ様の前でだけ女言葉なのが、ずっとずっと羨ましかったんだよ。いいだろ、一日くらい」





「でも……」





「花嫁衣装も着ないんだから、それくらいしてくれ」





 そう言われると、弱い。フローラのことを考えると、ナーディアはどうしても結婚式を挙げる気になれなかったのだ。ジャンニは、ナーディアのウェディングドレス姿を見たがっていたが、結局はナーディアの意思を尊重してくれたのである。





「わかったよ! じゃあ、明日な」



「楽しみだ」





 くくっと、ジャンニは笑った。
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