最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「奪おうとしたのが『属国』の人間だから怒られたのではないのですか」





 ミラネット卿は硬い表情を崩さなかったが、ロレンツォは怯まず「いいえ」と答えた。





「たとえどんな国の方であったとしても、パヴァン殿は同じ態度を取ったことでしょう。そう、彼は非常に狭量なのです。ですが、イリヴェンのあなた方は違いますよね?」





 ロレンツォは、ミラネット卿だけでなく、付き従う側近たちも見つめて微笑んだ。





「イリヴェンにおかれては、重要な宝である石炭を、我がラクサンドに供給くださっている。お心の広さは、パヴァン殿とは比べものになりません。どうぞ、その寛大さで、そしてこのご令嬢の美しさに免じて、彼の無礼な振る舞いをお許しいただけませんでしょうか」





 石炭の下りで、ミラネット卿らの表情がふと緩むのがわかった。重要資源である石炭を輸出していることは、イリヴェンの大きな強みである。優越感をくすぐられたのは、明らかだった。





「……まあ私も、大声を上げてすまなかった。舞踏会を再開してください」





 少し思案した後、ミラネット卿はそう言い出した。国王陛下が、ほっとした表情を浮かべる。





「そう言っていただけて、ありがたい。無礼については改めて詫びを申し上げるので、気を取り直して楽しんでいただきたい」





 固唾を呑んで成り行きを見守っていた男女らは、それぞれ元の位置に戻って行った。張本人のパヴァンはといえば、諦めたのか、ふてくされながらもマリーノに連れられて会場を出て行った。





「失礼いたしましたわ。是非、お相手をお願いさせてくださいませ」





 フローラが、ミラネット卿の元へ歩み寄る。言いながら彼女は、ロレンツォの方をチラと見た。すかさず、ロレンツォが言う。





「フローラ嬢。次は是非、私と踊っていただきたい」



「喜んで」





 フローラが、パッと頬を染める。ナーディアは、目を見張った。姉のこんな表情を見るのは、初めてだった。
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