最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 その後は特段トラブルもなく、宮廷舞踏会は無事終了した。任務を終え、王宮を出て寮へ向かって歩いていると、マリーノが追いかけて来た。





「お疲れさん」



「そっちこそ。パヴァン様の対応、大変だったろ?」



「いや、そうでもないけど。あの後、急におとなしくなってさ。もっとごねるかと思ったから、意外だった」



「……」





 急に黙り込んだナーディアの顔を、マリーノがのぞき込む。





「どうした?」



「いや。私は何だか、心得違いをしていた気がして」





 怪訝そうに、マリーノが首をかしげる。





「どういう意味だ?」



「王宮近衛騎士団の役割だよ。今までは、ただ武芸のスキルを磨けばいいと思っていた。でも、今日のロレンツォの振る舞いを見て、反省した。的確に場を収められてこその、警護役だ」





 舞踏会前のロレンツォの言葉が、苦々しい気分と共に蘇る。生意気だと腹を立てていたが、実際に職責を果たしたのはナーディアたちではない、ロレンツォだ。しかも、騎士団員として参加したわけでもないのに。パヴァンが静かになったというのも、ロレンツォの言動に圧倒されたからだろう。





「詭弁のような気もしたが」



「現に、私たちにはできなかったじゃないか」





 言い返せば、マリーノはさすがに口をつぐんだ。同時に、ナーディアには忸怩たる思いがあった。今日の自分は、ロレンツォとフローラのことにとらわれすぎていた。余計なことを考えていたから、騒ぎが起きた際、出遅れた気がしてならない。もっと慎重に会場内に目配りしていれば、未然に防げたかもしれないのに……。





 マリーノは、しばらく黙ってナーディアの顔をチラチラ見ていたが、やがて思い切ったように口を開いた。





「……あのさ。その……、やっぱり女は、弁の立つ男が好きなものなのか?」
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