最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

 ナーディアが部屋に入ると、ロレンツォはせかせかと尋ねてきた。





「で、結婚を認める気になった理由は?」



「宮廷舞踏会がきっかけだよ。下手をしたら外交問題になりかねないあの事態を、お前は実に上手く収拾した。感服したし、あれなら姉を任せても大丈夫な気がしたんだ」



「なるほどね」





 ナーディアに椅子を勧めながら、ロレンツォが頷く。





「俺は、今のラクサンドとイリヴェンの関係に疑問を持っている。イリヴェンは、ラクサンドに見下されているという意識が強いんだ。パヴァン殿の振る舞いは確かにひどいが、あそこまでの騒ぎになったのは、イリヴェン国民のコンプレックスが背景にあるからだ。それには、ラクサンドの責任も大きい」





 ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳には、真剣な光が宿っていた。





「ラクサンドはイリヴェンを、独立国としてもっと尊重しなくちゃいかん。俺が言った通り、大事な石炭の輸入元でもあるんだぞ? 何かというと援軍を派遣するのも、よろしくないと思う」





「でも、それはイリヴェン側が要請するからだろう? 断れば、関係は悪化するじゃないか」





 ナーディアは反論したが、ロレンツォはかぶりを振った。





「それではいつまで経っても、両国の関係は変わらない。毎度援軍を送って対症療法するのではなく、抜本的な解決を図るべきだ……。つまり、シリステラをどうにかすべき、という意味だ」





 ああ、とナーディアは合点した。シリステラは、ラクサンドの敵国だ。イリヴェンには石炭目当てで、何かに付け戦を仕掛けている。





「ロレンツォは、国思いなんだな」





 ナーディアは、感心してロレンツォの顔を見つめた。





「これくらい、普通だろう」



「いや、真剣に考えているのはわかるよ。ずいぶん、勉強もしているようだし」





 書棚に並んだ本は、歴史や外交に関するものばかりだった。





「何だか、私たち王都の人間より、よほど王国のことを考えているんだな。……その、悪かったよ。辺境出身と、馬鹿にしたりして」





 あっさりと謝罪すれば、ロレンツォは戸惑ったようだった。





「……何だよ?」



「いや。素直なんだな、と思って」



「悪いと思ったことは潔く謝れと、小さい頃からたたき込まれてきたからな。父の教えだ」





 ナーディアは、ふふっと笑った。
< 30 / 200 >

この作品をシェア

pagetop