最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

8

(ロレンツォは、その意味を知っていたのだろうか……)





 まさかな、とナーディアは思った。単に、目の色に合わせてくれただけだろう。それでも、これ以上ネックレスの話題を続けることに耐えられず、ナーディアは話を逸らした。





「それより、姉様。ドレスなんて着慣れないから、自信がないのです」



「ナーディアは運動神経が良いから、それほど緊張しなくてもいいと思うわよ。このドレスも、動きやすそうなデザインだし……」





 フローラは、しばしドレスや装飾品をチェックしていたが、やがてあっと声を上げた。





「この靴は、ちょっと厳しいかもしれないわね!」





 確かに、ドレスに合わせて購入した靴は、かなりヒールが高い。試着の際は、狭い室内で少し動いただけだから、特に苦痛は感じなかった。だが、広いパーティー会場で長時間過ごすとなると、辛いかもしれない。ナーディアは、不安になった。





 さらにフローラは、こんなことを言い出した。





「今日のパーティーは、ダンスタイムもあるのよ。それでは、とても無理じゃないかしら」



「え、それって全員強制ですか?」





 違うわ、とフローラはかぶりを振った。





「私とロレンツォ様は主役だから、必ずダンスを披露しなければいけないけれど。他の皆様は、踊られるも踊られないも自由よ」



「あー、よかったです……」





 ナーディアはほっと胸を撫で下ろしたが、フローラは残念そうにしていた。





「せっかくの機会だったのにねえ? いつもはオルランド殿下の付き添いだから、あなた自身はなかなか踊れないじゃない。ダンスは上手なのに、もったいないわ」





 いわゆる通常の淑女教育を一切すっ飛ばしてきたナーディアだが、ダンスだけは完璧である。体を動かすこと全般が大得意なナーディアは、フローラがレッスンを受けているのを傍で見て、全て習得してしまったのだ。ちなみに、男性パートも女性パートもいけるのである。





「私の靴を貸したいけれど、サイズが違うからダメね。ああ、もう少し早く教えてくれていたら……」





 恨みがましそうに言われ、ナーディアは小さくなった。ドレスのことは、当日の今日になるまで打ち明けられずにいたのだ。どうにも、恥ずかしかったのである。





「すみません……。でも、ダンスはパスしますので、大丈夫ですよ。パーティーの間くらい、乗り切れます」





 姉を安心させようと、ナーディアは力強く言い切った。それが甘い見通しであったことは、後ほど痛感するのだけれども。
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