最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
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ロレンツォとフローラの婚約披露パーティーは、フェリーニ邸の大広間で、盛大に始まった。格調高き調度品や装飾もさることながら、出席者の顔ぶれに、ナーディアは圧倒された。名門侯爵家、フェリーニ家の繋がりだけあって、会場はそうそうたる高位の貴族らで埋め尽くされていたのだ。騎士団の同僚たちが怖じ気づいていたのも、当然である。
パーティーは、フェリーニ侯爵の挨拶から始まった。ロレンツォの存在は、前回の宮廷舞踏会である程度知れ渡ったとはいえ、面識のない出席者も多い。侯爵は、次男として彼を正式に紹介した上で、フローラと婚約すること、モンテッラ家へ婿入りさせることを発表した。
「ご存じの通り、フローラ嬢のお父上は、ラクサンド王国の歴史に名を刻んだ王立騎士団長、ロベルト・ディ・モンテッラ殿。旧知の間柄でもある彼のご息女と、我が息子にこのような縁ができたことは、非常に喜ばしく……」
フェリーニ侯爵はにこやかに語っているが、ナーディアは、あの日漏れ聞いた彼の台詞を思い出していた。
――自分は清廉潔白ですとでも、言いたいのか……。
――忘れたとは、言わせんぞ……。
あの時の侯爵の声は、ロベルトへの怒りと憎しみに満ちていた。十四年前、二人の間には、一体何があったというのだろう……。
侯爵が話し終えた後は、主役のロレンツォ・フローラの挨拶だ。ロレンツォは、王宮近衛騎士団の制服で正装し、フローラは、今日のために仕立てた華やかなドレスに身を包んでいる。
(姉様、本当にお綺麗だ)
ナーディアは、心底感心した。フリルをふんだんにあしらった、淡いグリーンのドレスは、色白のフローラによく似合っている。ところどころに飾られた亜麻色のリボンは、二十歳とはいえ未だに少女めいた雰囲気を残すフローラを、より可愛らしく見せていた。出席した男性陣は、賞賛と落胆の入り交じったため息をついている。
(特に、あのグリーンが素敵だ。どこかで見たような色だな)
そんなことを考えていると、フローラの横にいるロレンツォと、ふと目が合った。ああそうか、とナーディアは思った。彼の瞳の色と同じではないか。澄んだエメラルドグリーン。
なるほど、と頷いてから、ナーディアはおもむろに自分のドレスを見た。この淡いグレーの色も、どこかで見た気がしたのだ。
(うーん、思い出せない……)
パーティーは、フェリーニ侯爵の挨拶から始まった。ロレンツォの存在は、前回の宮廷舞踏会である程度知れ渡ったとはいえ、面識のない出席者も多い。侯爵は、次男として彼を正式に紹介した上で、フローラと婚約すること、モンテッラ家へ婿入りさせることを発表した。
「ご存じの通り、フローラ嬢のお父上は、ラクサンド王国の歴史に名を刻んだ王立騎士団長、ロベルト・ディ・モンテッラ殿。旧知の間柄でもある彼のご息女と、我が息子にこのような縁ができたことは、非常に喜ばしく……」
フェリーニ侯爵はにこやかに語っているが、ナーディアは、あの日漏れ聞いた彼の台詞を思い出していた。
――自分は清廉潔白ですとでも、言いたいのか……。
――忘れたとは、言わせんぞ……。
あの時の侯爵の声は、ロベルトへの怒りと憎しみに満ちていた。十四年前、二人の間には、一体何があったというのだろう……。
侯爵が話し終えた後は、主役のロレンツォ・フローラの挨拶だ。ロレンツォは、王宮近衛騎士団の制服で正装し、フローラは、今日のために仕立てた華やかなドレスに身を包んでいる。
(姉様、本当にお綺麗だ)
ナーディアは、心底感心した。フリルをふんだんにあしらった、淡いグリーンのドレスは、色白のフローラによく似合っている。ところどころに飾られた亜麻色のリボンは、二十歳とはいえ未だに少女めいた雰囲気を残すフローラを、より可愛らしく見せていた。出席した男性陣は、賞賛と落胆の入り交じったため息をついている。
(特に、あのグリーンが素敵だ。どこかで見たような色だな)
そんなことを考えていると、フローラの横にいるロレンツォと、ふと目が合った。ああそうか、とナーディアは思った。彼の瞳の色と同じではないか。澄んだエメラルドグリーン。
なるほど、と頷いてから、ナーディアはおもむろに自分のドレスを見た。この淡いグレーの色も、どこかで見た気がしたのだ。
(うーん、思い出せない……)