最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
12
「誰よ、会わせたい人って?」
その場を離れると、ナーディアはダリオに尋ねた。
「ご令嬢付きで、僕にまとわりついてくる方々。相手をするのもいい加減疲れてきたから、防波堤になってくれないか。女性が一緒だったら、少しは牽制になるだろう」
「縁談がうっとうしいのね? でも、話くらい聞いてあげてもいいのじゃない。中には、素敵な令嬢がいらっしゃるかもしれないわよ」
そう言うと、ダリオは一瞬押し黙った。ややあって、苛立たしげに言い出す。
「とにかく、来てくれと言っている。君だって、社交の勉強になるだろう。上流の人間との交際術も、覚えた方がいい」
ダリオの言葉からは、微かに高慢さが透けてみえて、ナーディアは何だか嫌な気分になった。モンテッラ家はフェリーニ家より遙かに格下だと、わかってはいるのだが。
(第一、上流の人間なら、毎日接してるんだけど)
ラクサンド王国で国王陛下に次ぐ身分の人間を、ナーディアは護衛しているのだ。言動がチャラすぎるせいで、時折、いや頻繁に、王太子だということを忘れるけれども。
むっつりしていると、ダリオはナーディアの胸元をチラと見た。
「ところで、あのブラウンダイヤのネックレスは着けてこなかったのか」
「私は、このネックレスの方が好きだから」
占星術うんぬんの説明をする気にもなれず、ナーディアは短く答えた。
「似合わないかしら?」
「いや……、そんなことはないが。ただ、そんな品を持っていたとは知らなかった」
不機嫌そうなため息と共に、ダリオが言う。ナーディアは、再びムッとした。
(何だよ。どのアクセサリーを身に着けようが、関係ないだろ……)
「おお、ダリオ様!」
そこへ、早速声をかけてくる男性がいた。ご多分に漏れず、若い令嬢を連れている。彼は、ナーディアを見て顔を引き攣らせた。
「……そちらの女性は?」
「本日の主役・フローラ嬢の妹君、ナーディア嬢です」
ダリオは、にこやかにナーディアを紹介した。
「当家とモンテッラ家は、昔から家族ぐるみでお付き合いさせていただいていまして。僕も、フローラ嬢やナーディア嬢とは、幼なじみの間柄です」
「……さようでございましたか」
引き攣った顔をそのままに、男性が頷く。ナーディアは、軽くドレスの裾をつまんで挨拶したが、やや不満を覚えた。
なぜダリオは、ナーディアが王宮近衛騎士団に所属していることを、紹介してくれないのだろう。こういう場では、男性の紹介なしに女性がベラベラ喋ってはいけない、と聞いた。だから自分からは言い出しかねたのだが、湧き起こった小さなモヤモヤは、なかなか消えてくれなかった。
その場を離れると、ナーディアはダリオに尋ねた。
「ご令嬢付きで、僕にまとわりついてくる方々。相手をするのもいい加減疲れてきたから、防波堤になってくれないか。女性が一緒だったら、少しは牽制になるだろう」
「縁談がうっとうしいのね? でも、話くらい聞いてあげてもいいのじゃない。中には、素敵な令嬢がいらっしゃるかもしれないわよ」
そう言うと、ダリオは一瞬押し黙った。ややあって、苛立たしげに言い出す。
「とにかく、来てくれと言っている。君だって、社交の勉強になるだろう。上流の人間との交際術も、覚えた方がいい」
ダリオの言葉からは、微かに高慢さが透けてみえて、ナーディアは何だか嫌な気分になった。モンテッラ家はフェリーニ家より遙かに格下だと、わかってはいるのだが。
(第一、上流の人間なら、毎日接してるんだけど)
ラクサンド王国で国王陛下に次ぐ身分の人間を、ナーディアは護衛しているのだ。言動がチャラすぎるせいで、時折、いや頻繁に、王太子だということを忘れるけれども。
むっつりしていると、ダリオはナーディアの胸元をチラと見た。
「ところで、あのブラウンダイヤのネックレスは着けてこなかったのか」
「私は、このネックレスの方が好きだから」
占星術うんぬんの説明をする気にもなれず、ナーディアは短く答えた。
「似合わないかしら?」
「いや……、そんなことはないが。ただ、そんな品を持っていたとは知らなかった」
不機嫌そうなため息と共に、ダリオが言う。ナーディアは、再びムッとした。
(何だよ。どのアクセサリーを身に着けようが、関係ないだろ……)
「おお、ダリオ様!」
そこへ、早速声をかけてくる男性がいた。ご多分に漏れず、若い令嬢を連れている。彼は、ナーディアを見て顔を引き攣らせた。
「……そちらの女性は?」
「本日の主役・フローラ嬢の妹君、ナーディア嬢です」
ダリオは、にこやかにナーディアを紹介した。
「当家とモンテッラ家は、昔から家族ぐるみでお付き合いさせていただいていまして。僕も、フローラ嬢やナーディア嬢とは、幼なじみの間柄です」
「……さようでございましたか」
引き攣った顔をそのままに、男性が頷く。ナーディアは、軽くドレスの裾をつまんで挨拶したが、やや不満を覚えた。
なぜダリオは、ナーディアが王宮近衛騎士団に所属していることを、紹介してくれないのだろう。こういう場では、男性の紹介なしに女性がベラベラ喋ってはいけない、と聞いた。だから自分からは言い出しかねたのだが、湧き起こった小さなモヤモヤは、なかなか消えてくれなかった。