最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「ナーディアなのか? 本当に?」



「見違えたぞ。ちゃんと女に見える」





 同僚らは、ザウリと寸分違わぬ台詞を吐いた。ナーディアは、がっくりと肩を落とした。





「お前ら、団長と同じ表現しか出て来ないのかよ? もっと語彙を増やせよな」





 今度は、同僚らが肩を落とす番だった。





「ナーディア、表現を改めるべきはお前の方だぞ。その格好で男言葉はないだろう」



「――ああ、そうか」





 確かに不自然だな、とナーディアは反省した。淑女らしい言葉遣いを心がけなくては。フローラの話し方を思い出していると、同僚らが急にざわめき始めた。そして、サッと道を空ける。やって来たのは、ダリオだった。





「これは、王宮近衛騎士団の皆様。今宵は我が弟のため、おそろいでお越しいただき、ありがとうございます」





 今日のダリオは、ブルーと黒を基調にしたシックな装いをしている。落ち着いた雰囲気の彼に、よく合っていた。





「こちらこそ、お招きありがとう。エルネスト様が持ち直されて、何よりだったな」





 この前倒れた、ダリオらの伯父のことか。ザウリはダリオの従兄に当たるが、気安い口調なのは、彼の方がかなり年上のせいだろう。





「まったくです。このパーティーを延期せざるを得ないかと、ヒヤヒヤしたものですよ。ロレンツォが気の毒だ」





 不幸があれば、婚約披露パーティーどころではないものなあ、とナーディアは合点した。するとザウリは、何やら意味ありげに笑った。





「弟のためかい? 君自身のためじゃないのか」



「それは否定しません」





 ザウリに微笑みかけると、ダリオはナーディアの方を向き直った。





「ナーディア、少しいいだろうか。君に紹介したい人がいる」





 言いながらダリオは、ナーディアの腰に軽く手を添えた。これまで彼からそんな扱いを受けたことがないので当惑したが、ドレス姿のせいだろうと納得する。淑女として接しようとしているのだろう。





「わかったわ。じゃあ皆様、また後ほど……」





 淑女らしく振る舞えているだろうか。ビクビクしながら同僚たちの方を見やって、ナーディアはおやと思った。彼らは、そろって気まずそうな表情を浮かべていたのだ。そしてなぜか、マリーノの方を一斉に見る。





(何なんだ……?)





 気になって尋ねようとすると、ダリオが軽く腰を叩いた。急いでいるのだろう。仕方なく、ナーディアは踵を返した。その隙に、ダリオがマリーノに勝ち誇ったような一瞥をくれたことに、ナーディアは気付かなかったのだった。
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