最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

14

「は? 何だって? 私が、誰と婚約しただと!?」





 突拍子もない話に、思考が付いて行かない。一方マリーノは、憎らしげにナーディアのドレスを見つめている。





「そのドレス。まるっきり、フェリーニ家の……、ダリオ様のカラーじゃねえか!」



「カラー……?」





 ナーディアは、視線を下に落とした。マリーノが苛立たしげにわめく。





「グレーとブラウンだよ。決まってんだろ!」





 ナーディアは、あっと気付いた。道理で、このドレスの色味に、見覚えがあったはずだ。淡いグレーは、ダリオの瞳の色ではないか。それは、父フェリーニ侯爵にも共通している。まさしく、フェリーニ家の色。ナーディアは、ハッと胸元を押さえた。ロレンツォからネックレスをもらわなければ、ここにもブラウンダイヤが飾られる予定だった。……彼らの髪色の。





「ダリオ様だって、お前の色を身に着けて。それで、二人でくっついてりゃ、そう宣言してるも同然だろ!」





(全然、気付かなかった……)





 呆然とした。確かに、今日のダリオは、ブルーと黒を身にまとっている。ナーディアの瞳と髪の色だ。ナーディアの脳裏には、様々な人間の台詞が蘇っていた。





 『このカラーを身に着けることを了承しているのか』と念押ししたロレンツォ。





 ドレスを見て『そういうことだったのね』と言ったフローラ。





『今後ともよろしくな』と意味深に言ったザウリ。つまりは、親戚になると考えたのだろう。





 マリーノは、苦しそうに顔を歪めた。





「ここ最近、お前が休みごとにフェリーニ家へ通っていたって話も聞いた。あれは婚約準備だったんだろうと、皆納得している」



「全然、違う!」





 ナーディアは必死に訴えた。





「確かにフェリーニ邸には行ったけど、それには事情があって……。とにかく、ダリオと私の間で、そんな話は出ていない!」





 だがマリーノは、さらに衝撃的な台詞を放った。





「でもザウリ団長は、仰っていたぞ? ダリオ様から、こう尋ねられたと。ナーディアと結婚したら、彼女にはフェリーニ侯爵夫人としての役目に集中してもらいたい。だから騎士団は辞めさせるが、構わないかと」





 耳を疑った。
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