【短】みやまの花嫁


“明日”になっちゃった。

永悟はもう、いなくなっちゃったのかな。


昨日とは違う、柄のない今様色の着物。

袖の袂に入れてきた、ラムネの瓶とスーパーボール。


永悟との思い出は、これだけ。

でも、これを持っていられるのも、夜まで。




「お別れ、しないといけないんだ……」




つぅ、と何かが頬を伝う感触がして、くすぐったいと思う。

左手の甲で拭ってみれば、それは水滴だった。




「雨……?」




呟いて、空を見上げると、木の葉に覆われた中から、青い空がちらりと見える。

雨が降る時、空は灰色になるはず。

雨じゃないとしたら、これは……。




「……」




わたしは立ち上がって、歩き出した。

山の中を、探検するように。

そうしたら、少しは……。
< 63 / 72 >

この作品をシェア

pagetop