婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜

「ど……どうかしら……?」

 おそるおそる尋ねると、ややあって、彼はおもむろに顔を上げた。

「マギー……これは……!」彼は瞳を輝かせてわたしを見る。「母上の、料理だ……!」

「実は、図書館でこれを見つけたの」

 わたしは一通の手紙を出して、彼に見せた。
 彼はぶるりと震えて、おっかなびっくり手紙を手に取る。

「これは……母上の筆跡だ……」

「この手紙に書いてあったの。あなたの好きなレシピ。隠し味は、やっぱり隣国にしかないハーブを使用していたのだけど、領地でも手に入る代用品も記されていたわ」

 手紙にはたくさんのレシピと、デニス様について書かれてあった。
 彼は昔から変わらずにお調子者だったみたい。おかしくて、なんだか胸がじんとして、もう何度も読み返したわ。

「俺も――」彼は興奮気味に言う。「俺も、読みたいっ!! 読んでいい!?」

 わたしは頷いて彼に一枚目の便箋を見せた。
 そこには、

『デニスは読まないように』

 ……と、上に大きく書かれていた。
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