ワインとチーズとバレエと教授


理緒はスタジオから帰宅して、
夕飯の準備に取り掛かった。

今日はお寿司を握る。
ウニもイクラも買っておいた。

あとは、茶碗蒸しに
だし巻き卵、
牡蠣の蒸し焼きに、
ジュンサイのお吸い物も作ろう。
デザートは柿とイチゴとメロンにする予定だ。
しばらくすると亮二が

「ただいま」と帰宅した。

「おかえりなさい」

理緒が待ちわびていたかのように
玄関まで出迎えた。

「今日は何かな?」

「お寿司を握りました」

「にぎったの?」

「はい」

食卓テーブルには、寿司屋か料亭なみの
料理が準備されていた。

「本当に理緒はすごいな」

最近の亮二は、「理緒ちゃん」から「理緒」に
呼び方が変化した。

「亮二さんがいい頃、
お吸い物を温めますね」

「ありがとう、すぐ食べる」

亮二は嬉しそうだった。
それを見て理緒も嬉しかった。

食事が終わり、理緒が
お寿司を乗せた
長細い備前焼の器を洗っていると

「理緒、ちょっといいかな?」

そう言うと、亮二が何かの
パンフレットを持ってやってきた。

「そろそろ有給を消化しろと
事務に言われて、
海外旅行でもどうかな、と」

「わあ、素敵!」

理緒が茶わんを洗う手を止め、
旅行会社のパンフレット見た。

去年、亮二は
海が好きな理緒のために
ニューカレドニアに連れて行ってくれた。

何メートルも下の海底が見えるほど
澄み切った海に理緒は感激した。

亮二が「また、海がいいだろうか?
それとも陸がいいだろうか?」と聞くので

理緒は「…亮二さんが
いいと思う所で…」と遠慮がちに答えた。

「そうだな…海もいいし、陸もいいし…
半々を取って、地中海クルーズはどう?」

「地中海クルーズ?」

理緒が目を輝かせた。

スペインで観光してから、
翌日スペインの港から出向し、
イタリア、フランス、
ギリシャを経由して
スペインに戻るようだ。

もちろん、各国で下船し、
観光もついている。
クルーズは、夜のディナーで
ドレスコードがある。

亮二は、今の理緒のイメージと 
よく合うような気がした。

「素敵…でも料金は?」

「意外にもそれほど高くない。
せっかくだこら、海側キャビンを
取ろうと思うのだけど一人45万だ、
あとは、燃油サーチャージ」

理緒も一人80万くらいかかると思った旅費だが
45万で、これだけの豪華客船のクルーズにしては
それほど高くないイメージだった。

「でも…」

「遠慮するな、
オレも行きたいんだ」

「…私、ドレス持ってないの…
マナーもよく分からないし…
皆さんと上手くやれるか…」

そういうことが心配なのか。

「ドレスは好きなのを
何着か買えばいい。
あまり気にするな、
どうせ、クルーズ初心者が多いから」

「そうかしら…」

「気軽に楽しめばいいさ」

亮二はにっこり微笑んだ。
理緒もパンフレットを見て 
嬉しそうに微笑んだ。



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