ワインとチーズとバレエと教授

【交差する三人】壊れた天使の社交デビュー

そして、2ヶ月後、
待ちに待った
旅行の日がやってきた。

そして、亮二が思った通り、やっぱり理緒が
クルーズで主役になった。

20名近くの旅行客が集まった今回のクルーズの旅だが、引退した夫婦や、新婚旅行のカップルが3組などいる中で、

やはり、理緒の美しさと
教養と、立ち居振る舞いが
他の乗客の目を引いた。

スペインでガウディの
サクラダファミリアを見て 
ゴッホの展示会を鑑賞ー

一緒のツアー客で、絵画に詳しい
初老の男性がおり、
ゴッホの画を講釈していたが、
理緒もその話に笑顔で相づちをうちながら、
スペインの宗教画のエル・グレコを比較に出した。

乗船したあとは、さっそく
乗船パーティーがひらかれ 
各国の人々が楽しめるよう
社交ダンス会場がオープンされた。

踊らなくても、おつまみや、
シャンパンを飲んで
過ごしても良い。

日本人グループは外国人たちの社交ダンスを
遠くから見るくらいだったが

理緒は、真っ白なグローブに
真っ白なショートインロングの
オフショルダーのドレスを着こなして
パーティーに出席した。

胸元にはスパンコールが散りばめられた
美しいラインのドレスだったが、
それを着ている理緒の美しさには敵わない。

どうやら、通販で買ったようだが
理緒の美しさを引き立たすのに
十分だった。

理緒は、真っ白なハイヒールで
外国人と、すんなり
社交ダンスを次々と踊ってみせた。

曲が終わる度に
別の外国人男性が理緒に近づき

手を取り、理緒も笑顔で会釈し
気品よくダンスを踊る。

踊り終わりると
紳士が理緒に

「メルシーボークー」

と伝えていた。

亮二の側にいた着物を来た御婦人が

「このままだと、かわいい奥様が
取られてしまいますよ」

と、クスッと笑いかけてきた。

奥様かー
なんだか亮二は照れた。

「いや〜それにしても
奥様はダンスが上手い
上品でお美しく、若いのに
絵画にも心得があるようですな」

着物の御婦人と一緒にいた初老の夫が
亮二に話しかけてきて、理緒を褒め称えた。

亮二が「ダンスは、バレエを習っているので
そのせいかと…」と、やんわり伝えると
御婦人は「まぁ、バレエを…それで…」と理緒のダンスに納得していた。

「僕も、あんなに踊れるなんて
知りませんでしたよ」と照れながら言う亮二だが本音だった。

そして、理緒があまりに目立っているので

亮二は、曲が終わる頃を見計らって
理緒の手を引いて、会場の脇の
ロココ調椅子に座らせ
シャンパンを渡した。

「ありがとうございます」

理緒がシャンパンを口にした。

「なかなか、
離れれなくて…」と、理緒が申し訳なさそうに亮二に言った。

「そりゃそうだ、みんな君と
踊りたいのだから」
亮二もクスッと笑った。

「困っていたの…
助けてくれて、ありがとうございます」

きっと、次から次と
声がかかって、ダンスから抜けだせず
困っているのだろうと思っていた。

それからも楽しい
クルーズの旅が続き

理緒は、旅先の遺跡で
旅行客に聞かれた知識を披露し

ディナーでは
フレンチのソースについて
添乗員が説明に困っていたら
理緒がソースについて翻訳し、

船上でのオーケストラ演奏では
ヨハン・シュトラウスを聴いて喜び、

昼間は毎日、船内の
トレーニングジムで、ストイックに筋トレをし、

午後から出る三段トレーの
アフタヌーンティーでは、
マナー教室の講師のように
美しくカップアンドソーサーを持ち、
品よく食べてみせ、

いつの間にか、理緒は、美しく
ドレスが似合い、知識も教養も、品格もある
存在として、一目置かれるようになった。

それはそうだ。

理緒は、地中海クルーズに
亮二が申し込んだあと、

英会話に通い、バレエの講師に許可を取って
簡単な社交ダンスを習い、

マナー教室にも通い、紅茶の持ち方、飲み方、
カッブアンドソーサーの種類を徹底して覚えた。

観光地での歴史も勉強し直し
絵画も覚えた。

ドレスは何がふさわしいかまで
とことん、勉強していた。

だから、このクルーズでも
主役になるのは当然だった。

クルーズの船内で
理緒はスタッフにまで
顔を覚えられる存在となった。

ただ、美しいだけではない。
何かが、他人と違うー
理緒の滲み出る豊かな笑顔と品格が
周囲を和ませている。

亮二はそれが嬉しくもあり
何か、複雑なものを感じたー


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