悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
「じーく、べる、と……」
「うん」
「…………じーく」
「……! もう1回」
「ジークベ……」
「さっきのをもう1回」
「じーく……?」
「その呼び方がいいな」
「は、はい……」
「敬語もなしで」
「えっ……ええと……。ジーク、いいの……?」

 遠慮がちにそう言われたときの僕は、心の中で相当喜んでいた。
 この日だけで、僕はどれだけ胸を高鳴らせたのだろう。
 これ以来、彼女には「ジーク」と呼んでもらっている。
 実のところ、名前を略させろと一部から苦情が入っているけれど、ジーク呼びはアイナにしか許していない。



 それからの僕は、とてもわかりやすかったそうだ。
 客人が来るからお相手を、と言われれば「アイナですか!?」と前のめりになって聞き、何も言われなくても「アイナはいつ来ますか」「ラティウス邸に行ってもいいですか」と目を輝かせていた、と。

 そんな態度でいたから、アイナのことが好きなのだと家族にはすっかり知られていた。
 家族どころか、誰が見ても僕の気持ちがアイナに向いているのか明らかだったようで。
 多くの人は僕との縁談を進めても無駄だと判断し、撤退した。
 ラティウス家であれば家柄や勢力の問題も少なかったから、ジークベルト・シュナイフォードはアイナ・ラティウスと婚約するだろうと噂されていたそうだ。



 そんな風にアイナへの気持ちを積み上げながら、僕は10歳になっていた。
 最近になってようやく婚約をもぎとり、「アイナと結婚できる!」と幸せだったのだ。
 アイナは何かを気にして悩んでいるようだけど、僕の方にアイナと離れる気はない。
 もし、彼女が抱える悩みの1つに、僕との婚約が入っているのなら――結婚したいと思ってもらえるよう、努力するだけだ。
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