悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~

ジーク視点

「ずいぶん眠そうだね。あまり眠れていないのかい?」
「うん……」

 ラティウス邸の庭で、僕らはそんな会話をする。
 アイナがあくびをかみ殺しているのもわかった。
 この2年ぐらい、アイナは昼間でも眠そうにしていることが多い。
 なんでも、睡眠時間を削って勉強に打ち込んでいるとか。
 なにか理由があるのかと聞けば、

「……この世界や国のことを、もっとよく知りたくて。知識の分だけ自分の世界が広がるって思うから」

 と教えてくれた。
 たしかに、知れば知るほど、目に映るものは増えていくのだろう。
 
 10歳の頃、アイナが頭をぶつけて意識を失ったことがあった。
 それからしばらくは様子がおかしかったし、今もなんだか昔の彼女とは違うと思う。
 なんというか……アイナはもう少しぽわんとしていて、なにをしだすかよくわからないところがあった。
 今の方がはきはきしていて、次の行動も読みやすくなった……かな?
 本も元々好きだったけど、今のように勉強という感じではなく、物語の本を読んでいたはずだ。

 僕は、今の彼女を嫌だなんて思わない。
 当然のように努力し、世界を広げようとする彼女の姿勢や気持ちを、とても好ましく思う。
 彼女に並びたいと思えて、こちらもやる気が出る。
 頑張るアイナの姿は好きだし、僕にもいい影響があるのだから、彼女の歩みを止める理由はない。

 でも、睡眠を削るのはダメだ。
 ちゃんと寝た方がいいと伝えれば、アイナは僕が貸した本を読み切ろうとしていたと話す。
 ……3冊までって制限をかけているけど、もっと減らさないとまた無理をするかな?
 貸出数を減らすことをにおわせてみる。
 睡眠を優先すると言ってくれたから、一応はその言葉を信じることにした。
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