君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
プロローグ


研究室のイメージとはかけ離れたお洒落なオフィスのような部屋には、暖かな陽射しが差し込んでいた。

私は手にしていた絵本をそっとテーブルに置いた。
そして、向かい合って座っている男性を真っ直ぐに見つめ、意を決して、言いたくはない言葉を切り出した。

「今まで、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」

彼は絵本を見つめ、深々とソファに座ったままなにも言わなかった。

綺麗にセットされた髪からのぞく端正な顔は、変わらず冷静で無表情だった。

長い脚に細身のパンツを履き、グレイのベストを着ているその毅然とした姿は、大学教授というよりかは一流会社の経営者という方が相応しかった。

この素敵な姿を目にすることも、もうないのだろう。

この方と交流した日々は、私にとってまるで夢のような時間だった。

「勉強の方は続けるのかい」
「はい、検定に挑戦する気持ちは変わりません。絵本も公共図書館や他の大学にもあるそうなので、足を運んで探してみます」
「だが、うちほど所蔵しているところはないだろうね」
「そう、ですね……残念ですけれど」

今や絵本よりも、この方に会えなくなることの方がつらかった。

でも彼にとっては良いことだ。
多忙であるのにもかかわらず、学生でもない私のためにたくさんの時間を割いて、本当に親切にしてくださったのだから。
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